05.「例えば鳥のように」




白く細い腰を掴んでいた手を離し、中から萎えた自身を引き抜く。
そうして泡だった白濁が腿を伝い零れ落ちるのを眺めていると、荒い息を洩らしながら、疲れきった様子の七夜が布団の上に身体を横たえた。
燭台の仄かな灯りに照らし出されたその裸体は赤い痕をまるで花のように咲かせ、 酷く艶かしくこの目に映る。


「……七夜」


オレはそっとその身体を丸めた七夜の上に覆いかぶさるようにしてその頬に口付ける。
そうして手を伸ばし滑らかなその背を撫でながら、ふとその浮き出た肩甲骨を指で 辿ってみる。
昔、此処には鳥の翼が生えていた、そんな表現をしていた御伽話を聞いたことがある。
もしもこの七夜の背に今すぐ真白な翼が生えたなら、この子供は何処へ向かうのだろう。
この子供は何処か風のような気まぐれさを持っているから、もしかしたらオレの元より 飛び立ってしまうかもしれない。
脳裏にオレを置いて笑いながら空高く飛んでいってしまう七夜の後姿が思い浮かぶ。
そんな想像をしていると不意に此方を見遣ってきた七夜が驚いたような顔をした後、掠れた声で呟いた。


「……なんて顔、してんだ……アンタ……」

「……?」


そうしてオレに向かい合うように仰向けになった七夜が此方の首に手を伸ばしてくる。
そうしてその手を視線で追っているとそのまま七夜の横に引き寄せるように倒された。
とさり、とオレを受け止めた布団が柔らかな音を立てる。
そしてオレの顔に伸びてきた七夜の手が労わるように其処を撫でてくるのが分かった。


「また何か変な事考えてただろ」

「……別にそのような事は……」

「良いから言ってみろよ。……怒らないから」


そう言って笑った七夜の背に腕を回し、その身体を抱き寄せる。
そのまま首元に顔を埋めるようにしていると七夜がそっと耳元で笑っている声が聞こえた。
オレは七夜の背に回した手で先ほどと同じようにその肩甲骨に触れながら、小さく囁く。


「……もしも、お前に翼が生えたら……」

「……」

「きっとお前は何処かに行ってしまうだろうと思ってな」

「……馬鹿だなぁ、……アンタ」

「……」


オレの髪を撫でながら静かに笑った七夜がオレの額に口付けてから囁く。


「……もしも、そんな事が起きたって俺はアンタの傍に居るさ」

「……」

「……それにアンタが不安がるならそんな物、千切ったって良い」

「……七夜」


まるで湖面に映る月のように穏やかな光を宿している七夜の瞳と目が合う。
この子供を何処にもやりたくない。このままこの腕の中でずっと、抱きしめていたい。
そのような想いばかりがオレの頭を占めていく感覚はどうしても止める事が出来ないのだ。
しかしそれがこの子供にとって、そうしてオレにとって良いものなのかは未だに分からない。
何処かオレはこの子供に依存しているし、子供はオレに依存している。
……焦がれる程に愛している、此れがきっとそうなのだろう。


「……だからそんな顔するなよ、……な?」

「……」


オレはそう言って微笑んだ七夜に顔を近づけ、その唇に口付ける。
そのまま深く嬲るように舌を差し込み、その口腔を舐った。


「……っん……ぅ……」

「……っ……七夜……」

「……は……っぁ、……あ……」


口付けをしながらその身体の上に跨り、その柔らかな前髪に指を差し込み、 掻きあげてやる。
そのまま唇を離し、その首筋に再び吸い付き痕を残した。


「……軋間……」

「……良いか……?」

「……良いぜ、好きなだけしろよ。……アンタが満足するまで付き合ってやるよ」


不敵に笑った七夜がオレの目を隠している方の髪を除け、そちらの頬を撫でさすって くる。
この自身の際限の無い欲に終わりはあるのか、それは分からない。
それでもこの身体に点った熱を冷ませるのは何処に行こうとも七夜しか居ないのだ。
オレはその手に顔を摺り寄せ、まるで小鳥のように啄む接吻をした。



-FIN-






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