エンジェルグラス




 ――――あぁ、しくった。

 そう思った時には既に遅く、ぐらりと回る視界をどうにか慣れた偽物の笑みを口端に貼り付けて誤魔化す。
 知り合いの知り合いだ、なんて常連客の名前を出したからと多少なりとも信用したのが間違いだった。
 カウンター越しのクソ客にご退場願う為にスタッフを呼んだのが約一時間前。
 ときおり存在するのだ、【レジェンド】を目の仇にしていたり、わざわざ人前で恥をかかせてやろうとするああいった手合いの輩が。

 自分よりも怒っているスタッフを宥めながら頼んで貰ったタクシーで自宅として借りているアパートメントの前に下ろして貰い、なんとかベッドに雪崩れ込んだのが三十分前。
 ヒュウヒュウと喉を焼くような熱い呼吸を必死に抑え込みながら、額に滲みだす汗を拭う。
 全身を包む妙な倦怠感と狂気的なまでの興奮、それ以上に心臓の脈打つ速さにゾワリとした痺れを背筋に感じた。

 「……気持ち悪りぃ……」

 気だるいのに不愉快なくらいに暴力的な感情が頭を支配するのは、あの客に盛られたのであろう、近頃ソラスで出回っている【エンジェル・グラス】という薬物に違いなかった。
 マリファナに近い成分を多量に含みながら、その上でわざわざジョイントを使用せずとも簡単にトベるように、すぐに液体に溶ける無味無臭な粉末として加工された危険極まりない代物。
 それを奢りだと言われて飲んでいたウィスキーに混ぜ込まれたのだろう。薬物とアルコール、そして閉店間際の疲労感との合わせ技は最悪と言って良いくらいにその効果を発揮していた。

 【エンジェル・グラス】と呼ばれる薬物の効能は、一般的なマリファナと同じく急激に酒に酔ったような状態に加えて、性的な欲求が特に強化されるらしい。
 これをキメてセックスをするのが法など殆ど存在しないと言っても過言ではないソラスの若者たちの間では、現在かなりの"トレンド"らしかった。
 相当にイカれた"トレンド"ではあるものの、『ケダモノみたいな最高のセックスが出来る』のだとバカみたいな面をした若者が街中だというのにも関わらず、下品な笑みを浮かべて仲間に大声で振り撒いていたのを思い出す。

 「くっそ……ふざけんなよ、マジで、マージで……笑えねぇ……」

 一人そう呟きながらベッド脇のサイドチェストに無造作に置いたミネラルウォーターのボトルを手に取ると、震える手で蓋をこじ開け温くなりつつある水を乾いた口の中に含む。
 震えのせいか口端から零れる水が顎ヒゲを濡らすのを忌々しく思いながら、ボトルを持っていない方の手で顎先を拭った。
 このクスリの効果が切れるまではおおよそ二〜三時間。

 今まで生きてきた中で自分も全くクスリに関わったり、触れてこなかったワケでは無い。ティーンの頃にその場の空気で一度くらい……なんていうのはソラスでは当たり前の話だった。
 しかし【レジェンド】になってからはそういうモノと関わりがある人間とは距離を置いているし、そういう客が来た時も追い払うようにしていた。
 つまる所、余りにも関わりが無さ過ぎてまさか一服盛られるとは思ってもいなかったのだ。
 飽きるまで抜いてしまえば良いのだと思えども、クスリを盛られた上に自慰をし続ける気力などない。
 だったら、あと一、二時間程度ならば我慢すればいい。そう思っていた。

 だが、不意に部屋中に来客を告げるチャイムが鳴り響き、そうして何故か玄関のドアが開く音がする。
 もしかして余りの怠さと熱さに鍵を閉め忘れたかもしれないと記憶を探るが、思い出せない。
 何よりも人の家に無断で入り込んでくるなど、強盗だとしたら流石に今日の俺は運勢最悪だ。
 そう思いながら必死にベッドから立ち上がろうとふらつく体を動かしてようやくベッドに腰掛ける体勢まで持っていくと、丁度ベッドルームのドアが開き、まさかの人物がこちらを見ていて、視線が絡む。

 「……な……んで……お前……」

 俺の掠れた声に答えないまま呆れたような顔をしたクリプトがドアを開けて室内に入ってくる。
 【ゲーム】での戦闘服では無く白シャツと黒スキニー姿の男は、あからさまに眉を顰めてからこちらの顔を見るとため息を吐き出した。
 そのまま、問いに答えるように唇を開いたクリプトの声と吐息が、何故かいつもよりも鮮明に、そうして近くで聞こえるような気がする。

 「……ランパートに頼まれたんだ。ライフラインやレイスに連絡が着かなくて、最後に俺に何故か連絡を寄越したらしい……意味が分からないが」

 意味が分からない、と言いながらも背負っていたリュックを近くの床に下ろしてから、立ち上がろうとする俺の前にしゃがんだクリプトは、そっと俺の手を取る。
 冷たくて白い、薬指と小指のみデバイスを纏った指先が熱さのせいで柄シャツの袖を捲っていて露わになっていた手首に触れると、脈を計っているのか、すりすりと皮膚越しの血管を優しく触っていく。
 その間、冷たい皮膚の感覚に焦がされそうな意識をどうにか保つ為に視線を動かすと、間近に迫るクリプトの伏し目がちな睫毛が天井のライトに照らされてキラキラと輝いて見えた。

 この男は、こんなにも、綺麗な姿をしていたんだったか?
 こんなに、美味そうな姿だったか?
 自身の中から聞こえる囁きに理解が及ばない。
 なんだっていうんだ。俺はそんな事を考えた事なんて、一度も……。

 「……ハ……」

 "一度も無かった"なんて、そんなのは嘘だ。
 益々荒くなる息を肺からゆっくりと吐き出すが、そんなものでは到底排熱が追い付かない。
 ぐらつく頭がさらに混乱を呼び寄せ、下腹部に溜まった熱が早く出せと騒ぎ喚き立てる。
 違う、違う、こんなのは、と思うのに、クリプトの髪から少し前に俺が皮肉混じりにプレゼントしたシトラスの匂いがする整髪料の香りが漂っているのに気がつく。
 いつもなら恐らく気が付かない程度のその微かな匂いは、クスリによって鋭さを増している嗅覚には驚く程ハッキリと香った。
 渡した時は、『こんなの俺は付けないぞ』なんて苦々しそうに言っていたクセに。

 「とりあえず、気分はどうだ? ……まぁ、良い筈なんてないか」

 そうして、囁きながら顔を上げたクリプトの目元で小さく主張する黒子が酷く劣情を煽ってくる。脳髄が沸騰しておかしくなりそうだ。

 「!? ……おいッ、何して……!」

 ボフッと鈍い音を立てて手首を掴んでいたクリプトの身体を逆に掴んで引っ張り、ベッドに押し倒す。
 そのまま両手を拘束して腿をクリプトの足に挟み込むように入れれば、バタバタと抵抗を見せるクリプトが声を上げた。

 「ふざけるな、お前、自分が何をしてるか分かってるのか……?!」

 ざらざらとした息が唇から洩れる。間違っている。こんなのは、間違っている。
 こんなのは可笑しくって、俺はただクスリが効いていて、そうして元々、コイツの事がずっと好きで気になっていた。
 だから、間違っていると脳内で警鐘が鳴っている。

 でも一時間もこの不快な熱を独りで堪え続けていた自分には、この火照る肉体を収める術がもうこれしかないのもまた、分かっていた。
 きっと今の自分は本当にケダモノのような目をしているに違いない。口の中に唾が溜まる。
 血走った目がクリプトのシャツの隙間から見える首筋や鎖骨、掴んでいる内に少し色の変わってきた手に視線を走らせる。
 この感覚は飢えた獣が目の前に置かれた血の滴る肉をようやく手に入れようとする一歩手前と同じだ。
 欲しい、欲しくて堪らない。
 食わせてくれ、いや、でも。そんなのは。

 「……クリプ……ト……俺を蹴って、……いや、もう、なんだっていい……逃げて……あぁ、でも……でも……!」

 行かないでくれ、と言いかけた言葉を喉奥に詰め込む。
 渇望する本能と理性の狭間で悲鳴をあげる自分の声を口にのぼらせる。
 どうしてこんなタイミングでコイツが来てしまったのだろう。
 他の奴ならこんな風になんてならない。やはり今日の俺は運勢最悪だ。
 そうして、目の前でその黒く艶々とした瞳で俺を焦ったように見つめるこの男も。

 「とりあえず落ち着け。 ……ミラージュ、頼むから」

 青白い顔色をしたクリプトが、冷静さを保ったフリをして囁きながらも怯えた顔をしている。
 いつも不遜な顔をしたこの男が、ワケのわからない感情をぶつけられて、こんなにも弱々しい表情を晒している。
 狼に首筋を噛み付かれ、ぐったりと横たわる野ウサギのようだ。
 両手の拘束をさらに強めてから、その甘い気配にフラフラと誘われるように顔を近付け唇を合わせる。

 「うぅ、……っあ!……や……めろ、バカ……ウィ、ット……やめてくれ……!」

 嫌々と首を振っても、その程度の抵抗では到底足りずにふっくらとした粘膜を何度も啄む。
 ついにその柔らかい場所を舌先でベロリと舐めあげると、途端に軽い悲鳴を上げて、止めろと言ったクリプトの目が、やはりこの世界で一番輝いているように映った。

 「ごめん……ごめんな、……クリプト……クリプちゃん……ごめん……」

 言葉とは裏腹に、下腹部の熱はすっかりボトムスを押し上げて窮屈そうにしている。
 それをクリプトに覆い被さったまま衣服越しの下腹部にグリグリと押し付ければ、ヒッ、とクリプトが可哀想なくらいに可愛い声を上げた。
 額から流れる汗がポタリポタリとクリプトの頬に落ちる。
 まるで獣のような唸り声をあげた俺を見たクリプトの瞳は、鮮やかな絶望の色を宿していた。

 □ □ □

 「ッ……これ、外せ……!」

 白いシーツの上で、シャツのみを纏った身体をくねらせクリプトが騒ぐ。
 背中側に両手を回されてベルトで拘束され、ボトムスと下着を剥ぎ取られたクリプトの顔は相変わらず青白いものの、頬だけは微かに赤みを帯びている。
 恥ずかしさからくるのだろう吐息混じりの抵抗の声が鼓膜を揺らして、その微かな吐息すらも耳に大きく響く。
 本当はこんな風にしたくは無い。それは真実だった。
 けれど、こうでもしなければこの美しい獲物はきっと俺の前から逃げてしまう筈だ。
 だからこそわざわざベルトで両腕を拘束して、すぐに逃げられないように衣服を部屋の隅の方にまで放り投げたのは、自分自身の濁った頭の中で導き出した最適で最低の行動だった。

 クリプトの怒っている声に返事をせずに黙ったまま、脱がせる前に腕を拘束してしまったせいで半分脱げかかったシャツを留めているパールカラーのボタンを一つ一つ、下まで丁寧に外していく。
 勢いのままに引っ張れば、すぐにでも弾けてしまいそうなそこを敢えてゆっくりと開けば、首筋を覆い隠す金属製デバイスの上に何重にもかけられた色鮮やかなネックレス達がシャラリと音を立てた。
 そうしてその重なるネックレスの下、腕が背に回っているせいで自然と胸を持ち上げた形になっているクリプトの普段は晒される事の無い隠されている素肌が目に映る。
 ほんのりと汗ばみ震えるその肉体は暖色系ライトの光の中でぼんやりとした生白さを湛え、女性とは勿論違う膨らみのない胸板には、淡い色をした小さな二つの乳首が今にも触れて欲しそうに主張していた。
 そのまま眼球を動かせば、胸板から腹部へと滑らかに切り替わるようにスッと筋の通るしなやかな腹筋と、その中心にポツンとある可愛らしい臍。
 細い腰からも通る筋が到達する最終点には、僅かな下生えの傍で縮こまっているクリプトのペニスが視線を感じているのか、ピクピクと震えている。

 「……綺麗だ……」

 俺からそれらを隠したいのか、こちらの身体を挟み込んでくる腿も、そうしてしっかりとしながらも曲げられているお陰で今は丸みを帯びた膝も、その先のしなやかなふくらはぎも。
 特に足は常に【ゲーム】中で走っているからか、それともクリプトがそういう体質なのか、俺よりも細いというのに質のよい筋肉が付いていた。
 ――――どこもかしこも美味そうで、そうして美しい。

 勝手に洩れ出る感想をそのまま唇に乗せると、それを聞き取ったクリプトはただ何も言わずにさらにその抵抗を強めた。
 話せば話す程に無駄に俺を煽りかねないと思っているのだろう。
 だが、逆にその無言の抵抗でさらに目の前に差し出されるようになった胸元を隠すようになっているネックレスを指先で邪魔にならないようにズラす。
 そして複数枚の白と黄色のプレートが首横に落ちきる前に、我慢出来ずに右側の乳首に吸い付いていた。

 「! ……う、ぅ……」

 微かに汗の塩辛さの感じる乳輪と、小さな乳首にべったりと舌を這わせては、擽るように舌先でクルクルと舐る。
 その間に左手でもう片方の乳首をほじくるようにつまみあげ、右手ではやわやわと腰骨を何度も撫でては、ふとしたタイミングで狭い臍に指先を差し込む。
 今すぐにこの身体を暴いて、そうして奥にねじ込んで鳴かせてしまいたい。
 けれどそれ以上に、クリプトの蕩け堕ちる顔が見たくて仕方が無かった。
 それに怯えているクリプトを無理矢理犯す程、自分の欲にだけ溺れたくはない。
 どうせセックスをするのなら、二人でじっくりと愉しみたい。例えそれをクリプトが望んでいないとしても。

 「ぁッ……や、めろ……そん、……な触り方……っぃ! ……や……」

 ちゅ、と吸い上げた先の乳首がぷっくりとした膨らみを宿し、唾液でぬらついたのに満足してもう片方にも優しく吸い付く。
 だが、嫌がる声を上げたクリプトに、ではこうすればどうだろうと少しだけ噛み付いてみれば、ビクリと体を硬直させたクリプトの足先がシーツを蹴る。
 その反応に、余計にイジメたい気持ちが湧き上がってきて、噛み付いた場所を今度は優しく舐めあげながら目線を動かすと同じようにこちらを見ているクリプトと目が合う。
 青白かった顔色は少しずつ色を取り戻し始め、未だ怯えを宿したままの瞳が俺を見返してくる。
 思わず、ふ、と笑うとその笑いの間の吐息すら擽ったかったのか、腹に触れていた掌に伝わるくらいに内臓が動くのが分かった。
 じっくりと煮込まれて柔らかくなりつつある可哀想な野ウサギ。皮を剥がれて、怯える姿がやはり重なる。
 味付けを施されて、トロトロになってしまえば、後は美味しく口の中で跡形も無く食べられてしまうのだ。

 「……っは……」

 想像だけでイきそうになる自分を宥めるように深く息を吐きながら、ずっとボトムスの中で苦しがっていたペニスを出してやるために一度クリプトに触れていた掌を外すと手早くジッパーを下ろしていく。
 前だけを寛げようかとも思ったものの、結局そのまま全て面倒になり一気に下着ごとボトムスを脱ぎ去りベッド脇に落とす。
 ついでにワイシャツもボタンを途中まで外して頭を通して裏返すように雑に脱ぐと、それもまたベッドの横に放り投げた。
 どうせ一度だけでは終わらないのだ。だったら最初から全て脱いでしまう方が楽でいい。

 「ミラージュ、お前、本当に薬物でおかしくなってるだけなんだ。落ち着け……お前はそんな事をする奴じゃ……」

 こちらの動きを全て見ながらそう言っていたクリプトが、俺が下着からペニスを取り出した途端に黙りこんだのが分かって、顔をまた上げる。
 ジッと目線が注がれている先には、自分でも驚くくらいに張りつめたペニスが腹に付きそうなくらいに反り返っていた。
 これも全てクリプトを見て、触れて、そうしてこうなってしまったのだとコイツは分かっているんだろうか。
 少なくともクリプトが家に来る前はここまでではなかった。
 ダラダラとカウパーの流れ落ちるペニスを片手で支え、どうすべきかを迷う。

 「……クリプト」

 結局、ジリジリとそのままクリプトの身体を跨ぐようにしながら顔にそれを近付けた。
 嫌がるように顔を背けたクリプトの頬にその勃ち上がったペニスをビタリとぶつけると、俺を睨むクリプトに向かって囁く。

 「……お口あーんってして? クリプちゃん。もし口だけでイけたらもうそれ以上しないから」

 「なんで俺がそんな……!?」

 反論の為に口を開いたクリプトの唇に容赦なく指を二本押し込む。
 歯の裏の硬質な質感と、ぬるぬるとした頬肉、そのままグミのようなプニプニとした歯茎を辿って上顎の裏のざらついている場所を擦り上げる。
 好き勝手に口の中を指で犯されているクリプトは、それでも微かに指先を噛むだけで本気では噛んでこない。
 たらりと指の隙間から零れ落ちる唾液がクリプトの唇を濡らして、今すぐにでも喉奥にブチ込んでやりたいという欲求が湧き上がる。
 本当に嫌ならば、血が滲むくらいにこの手を噛んでくれたら良い。
 傷がつけば少しは正気に戻れるかもしれない。
 止めるかどうかと聞かれたなら、きっともう戻れはしないけれど。

 「クリプト、お願いだよ……お前の口の中、すごく気持ち良さそうで……なぁ、一生のお願いだ……俺の、舐めて……?」

 わざとらしくしゅんとした顔で口の中をまさぐりながらそう囁く。この男はなんだかんだと面倒見が良い。
 兄弟がいるのかどうかは知らないが、とにかく、ちょっとばかり可愛い子ぶって甘えれば、【ゲーム】中などは文句を言いながらも色々と寄越してくれるのだ。
 今回もこの作戦が効くのかは分からなかったが、ちゅぷりと音を立てて抜いた指先が透明な糸をかけるのを見ながら、クリプトの厚みのある下唇に沿わせた親指でそこを捲るように撫でる。
 そのまま捲りあげた唇にペニスを宛がえば、躊躇うようにしながらもクリプトがそこを開いた。

 「……んっ、……ぅ……」

 チロチロと先端を猫のように舐めるクリプトの姿はいつもでは考えられないくらいに、従順。堪らず親指をずらして口端に触れると、こちらの意図を理解したのかさらに大きく口を開けたクリプトの唇にペニスを半分ほど入れ込む。

 「……っむ、ぐ……う、……」

 止める手が無いからか、苦しげにそれを受け入れたクリプトの目元が艶々と濡れて、その雫を拭う為に指を這わせる。

 「あー……クリプちゃんの口、最高……でも、出来たらもっと、舌で包んだり……出来る?」

 その言葉に一度眉を顰めながらも、言われた通りに舌を大きく使って舐めてくれるクリプトの髪に手を当てる。
 熱い口の中で刺激を受けてペニスが震える度、クリプトの喉が動くのが分かって嬉しい。
 何よりも余り上手ではないフェラが、逆にこんな事を他の誰にもしたことが無いのだと想像させて、興奮を煽ってくる。
 そのままさらりとした髪を何度か撫で梳かすようにしながら、声をかけた。

 「ん……、すごい……気持ちい……クリプト、お前の口の中、あったかくて……ありがとな……」

 いい子、と呟きながらそのままクリプトの額の汗を拭う。
 俺の言葉に複雑そうな顔をしたクリプトが、視線を合わせるのを嫌がるように目を伏せ、さらに先端を吸い上げてくる。
 あのクリプトが、俺のを一生懸命に頬張ってイかせる為に舌を動かしている。
 それだけで既に張りつめていたモノが達するのは簡単だった。

 「ッ……もう、イく……顔に、出すからな……ッ……?」

 返答を聞く前に唇からペニスを引き抜くと、あとは自ら達するために指で扱く。
 クリプトの唾液とカウパーでぐちゃぐちゃになったそこを擦れば、すぐに背中から這い上がるような快感がどろついた粘液と共に吐き出され、そのままクリプトの顔面とシトラスの爽やかな匂いのしていた黒髪を汚していく。
 乳白色の体液がクリプトの額や、太い眉、顎まで覆う金属デバイスの上にまぶされていく様は恐ろしいくらいに心を満たす。
 一種のマーキングのような感覚なのだろうか。自分でもよく分からない感情を抱えたまま、最後の一滴までクリプトの髪に擦り付けるように念入りに飾ってやる。

 「……はぁ……、汚れちまったなぁ……後で風呂入らないとガビガビになっちまうかも……」

 目には入らないように気をつけてかけたものの、生臭い匂いのする精液を顔中に纏わせたクリプトは顔を拭うことすら出来ずに俺の声に、ハ、と小さな吐息を洩らす。
 汚したお前が言うな、と本来なら言いたいのだろう。
 しかし、やはり余計な話をしないようにしているらしいクリプトはただ黙って目だけで拘束を外せと主張してくる。
 本来ならここでもう止めておくべきなのだろう。
 それでも俺のプレゼントを何気無い顔をして使っていたクリプトのさらりとした黒い髪に落ちる白濁がどうにもこちらの感情を揺すった。
 跨ぐようにしていた身体を動かし、再びクリプトの足の間に戻ると、萎えていた筈のクリプトのペニスがその先端に甘そうな蜜を溢して勃ちあがっているのに気がつく。

 「ッおい、口でしたら終わりって言っただろ!」

 口でしてくれている間に、クリプトも同じように興奮してくれていたというのなら、それは何よりだ。
 そう思い、そのままもっと身体をずらすとベッドに肘をついてその揺れ動くペニスに手を沿わせる。
 熱を帯びたソコはこちらの指で軽く握り込むだけで、亀頭部分からプクリとまた蜜がこぼれ落ちた。

 「でも、お前も勃ってるし、このままじゃ辛いんじゃないのか? これはフェラして貰ったお礼な。『貸しを作ってばかりじゃ割りに合わない』ってお前も良く言うだろ」

 「それは【ゲーム】の時の話……っい、ぅあ、あ! ミラ、ジュ……やだ……! や……!!」

 クリプトの繊細なフェラとは違い、容赦なく口の中に全て収めると緩急をつけて揉み込むように激しくフェラをしてやる。
 ジュプジュプという粘着質な音が、頭を挟み込んでくるクリプトの腿の柔らかさで耳を塞がれダイレクトに脳内に響く。
 一度口から引き抜いて、裏筋を舐め上げ、そこからフニフニとした玉を食むように。
 今度は鈴口を舌先で割るようにしてから、また口に含ませ口に溜まる唾液をまぶして大きくストローク。

 「やっあ、……っぅぃっと、ヤダ、や……それッ……んん……イっ……く……から……!」

 「……どれが良かった? 全部気持ちいい? ……あぁ、ごめん……途中で止めたらイけないよな?」

 クリプトの切なげな声にわざと咥え込んでいたペニスから口を離すと、一層身体を揺らめかせたクリプトが恨めしそうな顔でこちらを見ている。
 あぁ、ダメだ、イジメちゃダメなんだと分かっているのに、そんなに可愛い顔をされるとどうしたって焦らしてぐずぐずにしてあげたくなってしまう。
 欲望のままにクリプトの身体を反転させ、両手で腰を上に持ち上げさせる。
 そうして手を伸ばしてサイドチェストの引き出しを開けると、使いかけのローションのボトルを取り出した。

 「ウィット……、ダメ……だ……って……」

 その体勢と、引き出しから取り出された物が見えたのかクリプトの声が微かに涙まじりになる。
 それに気がつかないフリをして、持ち上げさせた尻を割り開くと、そこに手に取って揉み込んだローションを塗りたくっていく。
 収縮を繰り返すピンク色のアヌスがローションのぬめりを纏って、イヤらしさを増す。
 
 「ちゃんと濡らさないと痛いだろうからな」

 これくらいでまずは良いだろうと、ぬめるそこを一度爪先で確認するように撫でると、クリプトの尻が逃げ出したそうに動いた。
 だがもう遅い、と勝手に喉が鳴るのを抑えないまま、右手でしっかりと尻を広げたまま左手の中指をゆっくりと埋め込んでいく。
 両足の間で揺れるペニスは相変わらず勃ちあがっており、指の股まで埋め込ませればクリプトのアヌスがキュウと指を締め付けてくる。

 「クリプちゃん、ちゃんと一本目飲み込んでる。偉いな。……痛いか? 大丈夫?」

 「ウィッ……ト……なぁ、も……ヤダぁ……! ……俺が悪かった、から……! 俺が、……んぁ」

 「なに? クリプちゃんは何も悪い事してないだろ」

 こちらの方がよっぽど酷い事をしている。そう思いながらも今度は人差し指を中指に擦り合わせるようにしながら中に埋めていく。
 赤くなったアヌスの入口がぷっくりとしているのを眺めつつ、二本目も順調に根元まで飲み込まれていくそこに早く挿れてしまいたくて仕方が無かった。
 だが、まだダメだと柔い中を傷つけないように二本の指でかき混ぜていく。
 その度に、ぷちゅ、と濡れた音が泡立ったローションと共に中から零れ落ち、時折、滑りをさらによくする為にローションを足していく。
 手首を返して指の角度を変え、さらに指を中で広げれば、段々と狭くきつかった内壁が緩んでいく感覚が心地よい。
 それと同時に一度萎えかけていたクリプトのペニスがまたその先端からとろとろとカウパーを零してシーツに染みを作った。
 さらにもう一本、と薬指も埋め込ませ、もう一度手首を返して少しだけ強く押し引きを繰り返してやる。
 もはや性器のように三本の指を銜え込んでいるそこはローションを垂れ流して、心底卑猥なモノにしか見えない。

 「あ、っぁ! あ……んぁ! ……あー……っひ! ……ぅ……」

 「もう三本入った。気持ちいい? ……俺の指、キュウキュウ締めてきてて可愛い。……ほら、ここは?」

 「ひぁッ!? ……っあー……は、ぁ……あッ……何、いや、だ……なに……!?」

 この辺りに確かあった筈だと指の腹でずっと探っていた場所を押し上げると、ビンゴだったのかクリプトの声が裏返り、甘い声を上げる。
 いわゆる前立腺を指で挟み込み捏ね上げ、不意に押し潰す。
 それだけで枕に顔を埋めたクリプトが喘ぎを洩らすのを聞きながら、もう我慢など出来ないともう一度だけ確かめるように中を押し上げる。

 「ここ、気持ちいいんだよな?」

 「――――ッ……!」

 絶対に気持ちがいい筈なのに、それでもいやだと首を横に振るクリプトは強情だ。
 そんな所がどうしようもなく好きなのだと改めて思いながら、探っていた指を引き抜く。
 一度達したというのに、クリプトの姿を見ている内にあっという間に復活している自身の息子に苦笑しながら、ヒクついているアヌスにピタリと亀頭部分を押し当てた。
 それだけで先ほどまで中を探っていた指を求めるように、クリプトのアヌスが俺のペニスに欲しがるような熱烈なキスを落とす。

 「挿れるからな……息止めるなよ」

 「ま、て……待って、く……っひぐ、ぁ、ぁ!? ……んんぅ、う……!!」

 ずっしりと重さを保ったままの熱を片手で支えつつクリプトの中を貫いていく。
 指で解したとはいえ、食いちぎられそうなくらいの締め付けの合間に、汗で滑るクリプトの細腰を掴んで出来る限りジワジワと、それでも確実に奥を犯す。
 後ろで拘束されている手で自分の腕に爪を立てているクリプトが、可哀想だと思うのに、それでも脳内ではもっと酷くしたいと囁く声がする。
 熱さで狂いそうな頭をどうにか歯を食いしばって堪えながら、ぴったりと自分の下腹部がクリプトの白く丸みを帯びた尻と張り付く感覚に深い吐息を洩らした。
 
 こんなにもコイツの中は気持ち良くて、ふかふかとしていて、それでいて見える景色は絶景だった。
 捲れ上がったシャツの下、熟れた肌を晒しているクリプトの金属製デバイスを纏った項や、綺麗に浮き彫りになっている背骨。
 赤くぷっくりとした果実のような縁が押し開かれて、俺のペニスを全部健気に銜え込んでいる。
 顔は見えないものの、きっとその黒い瞳には涙が滲んでいるのだろう。

 「クリプト、顔、少しは上げないと息止まっちまうから……」

 「……は、……っはぁ……ぅ、う……」

 そこで完全に枕に顔を押し付けているクリプトに気が付き、肩甲骨辺りを軽く叩くと額を枕に乗せたクリプトに一安心する。
 流石にこのままピストンをしたら苦しくなりすぎるだろう。既に、苦しいのだろうけれど。
 そうっと痛みで萎え始めているクリプトのペニスに手を添わせてそこを撫でる。
 後ろだけで快感を得られるのはまだ当分先だろうから、今は前だけでも少しは感じて貰いたい。
 こちらの考えを読んだのか、また嫌々と首を振ったクリプトの反応を窺いながら指で輪を作ってそこを扱く。

 「ひ、……っ、……もぅ、許し、て……ウィット……そこ、触ったら……ぃや、だ……!」

 「でもお前、このまま動いたら痛いだけで終わっちまうだろ? ……それは俺が嫌だ」

 「んぅ、う……それで、良いからッ……も、早く……終わらせて……くれ……ッは、ぁ……あー……」

 クリプトのお願いを無視して、ちゅくちゅくと濡れた音を立てているそこをさらに早く扱きあげつつ、先端を指の腹でなぞり上げる。
 途端にまた甘い声を洩らしたクリプトの中に埋めていたペニスを腰を回して軽く揺すると、ビクリとクリプトの身体が震えて前に体が移動しようと動く。
 それを追いかけるように少しだけ引き抜いてから奥に押し込めると、悦い所に当たったのか、クリプトの内部が一際締めあがった。

 「あ゛ぁ! ……っは、ぁ……も、いや……だ、……やだ……それ、ダメ……!」

 「……クリプちゃん、ずっと嫌しか言ってないな。……これでもいや?」

 「っひ、あ、っぁあ゛! ……ッ、……っひぅ……、っぁああ……!?」

 ペニスを擦りながら、半分程度まで引き抜いたペニスを前立腺目掛けて打ち込めば、触っている前から歓喜の雫が落ちる。
 それでもなお、快感から逃げるように腰を引こうとするクリプトの尻を思わず腰を掴んでいる手の片方でピシャリと叩くと、さらに掌を濡らす粘液の量が増した。

 「……叩いちまってごめん。でもクリプト、さっきより締めてくるのな。もしかして痛い方が好き?」

 少し赤くなってしまった尻を今度は優しく撫でながら、やはり顔を見たくなって埋めていた熱を引き抜く。
 外気に触れて寒さを感じるそこを宥めながらもクリプトの身体を反転させると、涙でぐしゃぐしゃになった顔をしたクリプトがこちらを見ていた。
 その顔にキスを落としつつ、また足を開かせると今度はもう少しすんなり入った中を堪能する。
 そうして腰を掴んでいた手で両乳首を爪で引っ掻くように愛撫すれば、背をしならせたクリプトが目元からも雫を落とした。

 「可愛い……クリプト、……お前、本当に可愛いよ……綺麗だ……」

 「ちが、……う……こんなの……うぅー……ハ、ぁ……あッ……」

 「なにが違うんだ? ……ほら、キスしよう。……舌、ベーってしてみろって、な、クリプト」

 胸元への愛撫と、可愛い、という囁きにクリプトの目が戸惑いと共に蕩け始めているのが分かる。
 もう少しだと、片手を顎に触れさせて顔を寄せれば赤い舌がおずおずと差し出されて、うっそりと笑った。
 舌先を絡ませて、そのままその先端を吸い上げ、フェラの要領でクリプトの舌を扱く。
 混ざり合い飲み下せずにクリプトの顎先が唾液でベトベトになるのも気にせずに、すっかり馴染んだペニスを引き抜き、そうして中を穿つ。

 「ぁっが、……ぁふ、ふ、ぁ……みら、……っじゅ、……っひぃ、あ……あ゛……!!」

 そのまま乳首を触れていた手を外してクリプトの脚を肩にかけさせると、身体を折り曲げるようにさせながら腰を振る。
 眼前のクリプトの姿を目に刻みながら、もっと奥へ、奥へとペニスを押し込んでいく。
 ぶちゅん、と温くも卑猥な音が部屋中に籠り、ぼたぼたと汗が滴ってはクリプトの身体に降り落ちる。
 この体を隅々まで味わい尽くして、そうして征服してやりたい。
 嫌だというこの男の中に、それこそ溢れてしまうくらいにたっぷりと種を植えつけてしまいたい。
 上も、下も、全部、全部俺という存在で埋め尽くしてそれだけしか考えられなくなってしまえば良い。
 唇を塞いで、前を触って、そうして一番に気持ちいいだろう場所をめちゃくちゃに穿つ。

 「ひ、ぅ!! ……こ……わ、い……ウィ、ット……こわ、れ……っちゃ……うぃっとぉ……きもちい……、俺……お、れ……っはっぁ、あ……!」

「! っは、……あ、……だいじょうぶ、……だって、クリプちゃん……俺も、一緒……に……な?」

 キスの合間で離れたタイミングで、すっかり蕩けた目になったクリプトがうわ言のようにそう声を上げた。
 やっと素直になってくれた。そう思えばもう限界近い熱はあっという間に、高まっていく。

 「う、ぃっと、う……っぐ、あ゛、ぁッあ……も、う、イく……イく、……ッひ、ぃあ……あー……!!」

 「クリプト、……っぁ、ぐ……可愛い、……好きだ……好き、だ……!」

 グ、と押し付けるようにしながら、二度目の絶頂とは思えないくらいの量をクリプトに注ぎ入れる。
 俺の射精のタイミングとほぼ同じタイミングで達したらしいクリプトの胸にはクリプト自身の精液がぼたぼたと流れ落ち、掌を汚した。
 ゼイゼイと荒い息を洩らすクリプトの前でその精液を口元に運んで、舌先で舐ると地上に打ち上げられた魚のようにその唇を開閉したクリプトの目が俺を見つめる。
 そうしてまたもや内部で熱さを持ち始めた俺のペニスに気が付いたのか、ドロドロになったクリプトがどことなく甘い匂いをさせながらうっとりとした顔でそっと微笑んだ。
 完全に快楽に身を委ねてしまったウサギのなんと可愛らしい事か。
 その笑みに答えるように俺もまた、笑みを浮かべながら、口付けをする。

 ――――クスリが完全に抜け切るまで、あと一時間。


-FIN-






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