「ん、なぁ……クリプちゃん……やっぱり……」
「なんだ」
「……いや……、……その……っぁ……!」
「大人しくしてろよ、小僧」
ふかふかとした柔らかな質感のベッドに、大の男二人で身を横たえているこの状況をどうにかしなければと思い、引き攣れた声を上げる。
だが、俺と一緒にベッドの上に居るクリプトはそんな事など気にもしていないのか、逆にほんのりと赤くなった頬がベッド脇のローテーブルに置かれたテーブルライトだけが唯一の明かりである室内でも分かるくらいの距離まで近づいてきた。
クリプトのこんな表情はなかなか見られるものではない。そもそも、一度でも見た事があっただろうかと気を散らす為に過去の記憶達を引っ張り出そうと試みる。
だがしかし、記憶を探り終わる前に、当然の如く伸びてきた金属製デバイスの取り付けられた指先が薄手の柄シャツ越しの乳首を引っ掻き、自分でも意図しない声が出て恥ずかしくなる。まさか、そんな事をクリプトにされるなんて。
クラリと頭が揺れる中で、もうこれ以上は止めなければと思う自分と、いっその事、「とびっきり良い思いをさせて貰えよ」と脳内で囁く自分の声がする。
正直な所、自分自身もしっかりと正気を保っているかと言われれば怪しい所なのだ。
結局、上手く言葉が紡げず言いよどむ俺の上に跨り、ニヤリと笑ったクリプトの顔を見つめる。
見慣れた黒い瞳には、明らかに面白がっている気配がダダ漏れて映っており、俺はどうしてこんな状況になってしまったのかを整理する為に今日一日の出来事を思い返していた。
今日の【ゲーム】はストームポイントでの試合だった。
思えば、今朝から何か良い事でもあったのか、クリプトはいつもよりもだいぶ上機嫌だったような気がする。
俺は俺で、近頃片思いのような感情を覚えている相手が普段よりも楽しげな笑みを浮かべていて、しかも、いつもはそんなに笑ってもくれない冗談にさえ面倒くさがりながらも笑ってくれた事で浮かれていた。
そうして迎えた【ゲーム】本番。俺とクリプト、ラムヤという構成で始まった試合は、降下直後から調子が良かった。
いつもなら幾つかの部隊と競り合う事になる筈のチェックポイントという名の付けられたエリアに降り立った俺達は、珍しくフリーで物資を漁る事に成功し、スタートからかなり良い物資を揃えられた。
その後、ザ・ミルで争っていた敵部隊の両方を叩くような形でさらに物資を揃え、トントン拍子にチャンピオンを勝ち取ったのだ。
喜びを表す為にウサギのようにフィールドを跳ね回るラムヤを横目に、俺は今日ならクリプトを飲みに誘えるのではないのかという期待に胸を膨らませていた。
最近は飲みに誘う事で一緒に飲む機会は増えてきたものの、それでも断られる回数はまだまだ多い。
本当に忙しいのか、はたまた面倒に思われているのかは分からないが、断られる度にいくら"陽気さ"を売りにしている俺でも少しはへこむ。
なのでこっそりと満足そうな顔をしているクリプトに近づくと、そっと耳元で囁いた。
『なぁ、おっさん。……ほら、なんだっけ、この間お前が好きだって言ってた酒、仕入れたんだが……』
『ッ……なんだ、いきなり……酒って、あれか』
『そうそう。……良かったら今日飲みに来ないか。勿論、美味いつまみだって出すし、他にもイケメンバーテンダーのウィットに富んだ会話もついてくる! めちゃくちゃお得なキャンペーン中だぜ。 因みに"ウィット"と"ウィット"をかけてるんだ、イカしてるだろ?』
『言われなくても分かる。一々解説をするな。そもそも、最後のはそこまで良いサービスに思えないが……まぁ、良いだろう。店でならランパートも居るんだろ』
『いやッ……』
急に声をかけたからか、ビクリと身体を震わせたクリプトが俺の方に向き直ったかと思うと、やはり機嫌よく返事を寄越してくる。
いつもの場合だといきなり横に立つな、なんていう文句か、さらに機嫌が悪い時なんかは拳まで飛んでくるというのに。やはり今日は随分と機嫌が良いらしい。
これならばきっと大丈夫だろうと思った通り、クリプトからの返事はあっさりとオーケーだった。
だが、最後の言葉の後にラムヤに視線を向けたクリプトの声に食い気味で声を重ねた俺に、不思議そうな顔をしたクリプトが微かに首を傾げた。
たまに出る小動物のような動きに、心臓を掴まれかけるが、どうにかそれを誤魔化すように一度咳払いをしてから言葉を続ける。
『……あー、アイツは今日はヴァルキリーと朝まで呑みに行くんだって言ってたから、二人飲みだ。いまさら嫌だって言ってももう遅いからな』
『そうなのか。……別にそれでも俺は構わないが、何をそんなに焦っている?』
『焦ってなんかねぇよ。……ほら、ドロップシップが来たぞ。チャンピオンのが、がい……なんだっけ? とにかく約束したからな!』
会話の途中で遠くから聞こえてきた音の出どころを見つける為に自然と見上げた先には、澄み渡るように晴れた青空があり、【ゲーム】に勝ち残ったレジェンド達を【ゲーム】用の施設へと運ぶ為のドロップシップがその青く穏やかな空間を裂くように飛来していた。
俺は慌ててクリプトから離れると、ドロップシップの轟音で声が掻き消される間にさっさとラムヤに取引を持ち掛ける為に声をかけに向かった。
とっておきの酒と、希少なパーツの購入というかなり重い条件を出されたものの、ラムヤとの取引は無事成功し、クリプトに言った通りにラムヤはヴァルキリーと朝まで飲みに行ってくれる事になった。
パスには今日はちょっと"野暮用"があるから、近頃何故だかお気に入りらしいあの殺人ロボットの居るIMCの地下倉庫にでも"お出かけ"を頼めば良いだろう。
パラダイスラウンジは臨時休業にしてしまえば良い。
これで準備は整った。こうして俺はどうにかクリプトとの久しぶりのさし飲みというシチュエーションを作り出す事に成功したのだった。
そして、パラダイスラウンジにて二人、楽しく飲み交わしていたのだが、今日は本当にクリプトの機嫌が非常に良かったのと、俺も俺でちょっとしたイタズラ心が芽生えてしまって、クリプトに出す酒をバレない程度に強くしていくのと同時に、自分もいつもよりは飲み過ぎてしまった。
…………その上、隣でとろとろに溶けた瞳で笑うクリプトがどうやったって、目に映る。
これは夢か? それとも幻覚か? そんな疑問すら浮かぶくらいの最高な時間の中で、クリプトが小さく欠伸をしたのが見えた。
どうせ断られるだろうとボンヤリと考えながらも、俺は口元に当てていたグラスをカウンターに置くとクリプトに向かって声をかける。
『なんだ、クリプちゃんはおねむな赤ちゃんなのか? だったら店のベッドを使えよ。どうせ明日はオフだし』
だが、俺の言葉に眉を顰めたクリプトは、その蕩けた瞳のままゆっくりと囁いた。
『いつもそうやって連れ込んでるのか? ……なぁ、ミラージュ』
『は?』
『お前、顔は良いもんなぁ……たっぷり酔わせて、優しく微笑んでそう言えば、大抵の女性は落ちるだろうさ』
『なに、な、バカ!! 何言ってんだ!! 俺はそんなつもりで言ったんじゃ……』
『……冗談だ。本気にしたのか?』
思わず顔が熱くなる。別にそんな下心なんて、……まぁちょっぴりはあったが、少なくともクリプトの寝顔を見られるかもしれないという期待程度だった。
しかし、俺のうろたえる顔をただじっくりと見ていた隣に座っているクリプトは、ぐっと距離を縮めてきたかと思うと、アルコール混じりの吐息がかかるくらいの距離で笑った。
『……俺の事を"赤ちゃん"だなんて揶揄ったが、お前の方がよっぽど"赤ちゃん"なんじゃないのか?』
初めからわざとおちょくってきていたのか、それとも、本当に酔っているのか、未だに読めないクリプトは、ふふ、とまた笑ったかと思うとゆったりと囁く。
そうして持っていた細身のカクテルグラスをカウンターに置いた指先が動いて、冷たくも滑らかな指の甲で俺のヒゲに触れる。
突然の出来事に呆気に取られている間にも、サリサリと皮膚とヒゲが擦れる音を聞き取る鼓膜だけはハッキリと機能していて、何か冗談でも言おうとした唇は何度か開いたり閉じたりした後に、最終的には本音を零すしか出来なかった。
『それは……試してみれば、分かるだろ……』
『ほーう。それもそうだな。……ウィット、お前がどれくらい"大人"なのか見せて貰おうじゃないか』
『おいおい、クリプト! お前、本気で言ってんのか』
『勿論、本気だが? ……さぁ、ベッドに案内しろよ。小僧』
こちらが混乱しているうちに、あれよあれよという間にカウンター横のハイスツールから降りたクリプトは、当たり前だと言わんばかりに肩を竦めた。
そのまま俺も俺で流されるままに、店の中にある自分用の仮眠スペースにまでクリプトを引き連れてきてしまったのだった。
俺の上に跨ったままシャツのボタンに指を掛けたクリプトの手を掴んで止めかけるも、ジットリとした目線でそれは阻止される。
このままでは本当に酔ったコイツとセックスする流れになってしまう。
本当ならキチンと告白をして、そうして何回かデートなんてしてみたりして、それから……そんな妄想ばかりを俺は膨らませていたというのに、目の前の男は妙にノリノリで全てのシャツのボタンをあっという間に外したかと思うと、胸元を熱い掌で撫で擦ってくる。
別に今まで全く経験が無いという話でも無かったが、それでも男を相手にした事は無かった。
それに幾らクリプトが俺よりも華奢な手をしているからといって、女性とは全く違う銃ダコの出来たしっかりとした広い掌だというのに、触れられる度に心臓がバクバクと脈を速める。
そんな俺の頭の中を読んだかのように、心臓のある位置に手をずらしたクリプトはもう片手で首筋を撫でながらうっそりと笑った。
「凄い脈が速まってるじゃないか。……俺に触れられてそんなに興奮してるのか?」
「そんなの……っく、……ちょ、っとクリプちゃん……」
「なんだよ。乳首も開発済みなんて、随分といやらしい身体をしてるな」
「違うって、くすぐったいんだよ……!」
心臓辺りを撫でていた指がそろりと動いて、今度は直接乳首の上をなぞっていく感覚に身が震える。
人差し指で円を描くように触れるか触れないかくらいのタッチで先端を擦られれば、自然と腰が揺れ動いてしまうのは仕方が無い事だろう。
だが、俺の返答が気に入らなかったのか、身体を屈めたクリプトが赤い舌を伸ばしたのが見えた頃には、まるで猫のようにそこを舐められ、思わずその頭に手を伸ばす。
サラサラとした質感の黒髪、切りそろえられた前髪の向こうから、いつもは鋭い瞳をしている筈のクリプトが上目遣いでこちらを見つめていた。
あぁ神様、こんな事が許されるのだろうか。勝手に脳内で祈る気持ちになりながら、ずっと触れたくて仕方なかった髪を撫でる。
「っぁ……くそ、……そこばっかり舐めるなって……」
ぴちゃぴちゃと濡れた音を立てながらたっぷりと唾液をまぶして胸元を舐めてくるクリプトに、快感を得られるように訓練していない筈の乳首が膨らむのを感じて動揺する。
その上、舐めていない方の乳首も優しく愛撫を施してくるクリプトに、段々とこのままでは俺は食われるんじゃないのかという思いが湧き上がってきた。
クリプトの事はとっくに好きになっていたものの、俺もコイツも男同士だ。だからもしセックスをするのならば、どちらがボトムになるのかを決めなければならない。
好きな相手とセックス出来るのならどちらでもいいとは思うものの、出来るならば、俺は自分の下で喘ぎ乱れるクリプトが見たかった。
それに、恐らく俺の力量(この場合、力量と呼ぶモノなのだろうか)を計りたいと言っていたクリプトに、そろそろこちらからも何かしなければ負けているような気もする。
「クリプちゃん……、俺も触らせてくれよ……ッ……お前に触りたい……っふ……それ、だから……くすぐったいって……!」
こちらの言葉を無視して相変わらず舐められる乳首がこそばゆさを増幅させ、それを堪える為に俺はフリーになっている左手を伸ばしてクリプトの細い脚を包む黒いスキニーを履いている腿に手を伸ばす。
薄手な生地の質感の奥に潜む腿を煽るように表と裏を行き来する動きをすれば、胸元を舐めていた顔を上げたクリプトが淡く色づき濡れた唇をぺろりと舐めあげた。
なんなんだ、お前、そんなエッチな顔出来るなんて知らなかったぞ! と言いかけた唇を閉じる。
代わりに自分でも情けないくらいに揺らいだ声が"お願い"を伝える為に口から洩れ出た。
「……なぁ、……あのさ……俺、……俺ッ……」
「……どうした、ゆっくりで良い。言ってみろよ」
「……んん、……俺、……お前に挿れたい……ダメ? ……ちゃんと頑張るから……」
「ふむ……そうか、お前は俺に挿れたい方なんだな。……構わないさ」
俺はどちらかと言うとお前に挿れられたかった、と耳に顔を近づけてきたクリプトに息を吹きかけられる。
もうこれ以上は堪えられないと太腿を撫でていた手で肩を押して体を入れ替えようとするが、その前に全力でまたベッドの上に押し戻され、混乱したままクリプトを見上げる。
俺が挿れる方で許されるなら、この体勢のままではクリプトを愛でる事が難しい。俺の経験が足りていないのか? とも思うが流石にそんなワケは無いだろう。
しかし、何かを言うのを許さないとでもばかりにクリプトは人差し指をこちらの唇に当てて、静かにしろというポーズを作ったかと思うと、呆然としている俺に顔を寄せてくる。
厚めの唇が触れてくる感触は心地良くて、その気持ち良さに溺れかけているとベロリと先ほどまで胸元を舐めていた舌が唇の上を通った。
ぬるつき熱いそこが何度か確かめるように舐めてくるのを唇を開いて受け入れる。
途端に中へ侵入してきたクリプトの舌がこちらの舌を絡めとって、容赦の無いフレンチキスを施されていく。
想像していた以上に熱い舌と、クリプトの吐息、口の中を探るような動きに、クリプトの形のいい頭を撫でる手付きに力が籠る。
「んぅ、う……っふ……は……」
「っは……ん、……なんだ、キス一つでそんな顔になるなんて、まだまだだな」
「だって……お前がいきなり……」
「いきなりのキスは嫌いだったか?」
好き勝手に弄られ、ようやく離れたクリプトが唇を手の甲で拭いながらそう呟く。
それに男らしさと色っぽさの両方を感じ取ってしまって、言い訳めいた言葉が出た俺に、またもや顔を近づけたクリプトは少し汗ばんだ額にキスをしてくる。
まるで子供をあやす行為だと思いながらも、その行為が嫌では無いのがまた、困る。
「……嫌いじゃ、ねぇけど……」
「じゃあ良いだろう」
「ガキ扱いすんなよなぁ……俺だって、俺だってさぁ……いつもならもっと、リードしたりとかするんだよ。本当は」
「分かった分かった、そう拗ねるな。……確かに、ここは随分とご立派そうだ」
「ひぇ! ……ま、ッ……クリプトぉ……それは、ダメだって……!」
その言葉と共に、上に跨っているクリプトのスキニー越しの尻がすっかりボトムスを押し上げてテントを張っている俺の股間をぐりぐりと押し潰す。
ただでさえ刺激の強い光景に俺の息子も興奮状態で、限界近いというのに、そんな事をされては声を上げるしか出来ない。
俺の情けない声に含み笑いをしたクリプトは、身体を下の方にずらして俺の両脚の間に収まったかと思うと、迷いのない手付きでデニムのボタンを外し、ジッパーを下げてくる。
ジッパーの下ろされる微かな金属の摩擦音の後、履いていた下着までも容赦なく下げられれば、腹に付きそうな程に反り返ったペニスが元気よく飛び出した。
それをしげしげと眺めているクリプトに、もはや恥ずかしさの余り死んでしまいそうで、行き場の無くなった両手で顔を覆う。
この状況は一体なんなんだ。好きな奴に相手をして貰っているとはいえ、流石に初めてのセックスでそこまでねっとりとした視線でペニスを見られるのは恥ずかしすぎる。
いや、まぁ、自分の息子に自信が無いワケでは無い。どちらかといえばきっと大きい方だと思うし、形としても悪くは無い筈だ。他の比較対象が無いから分からないが。
脳内でぐしゃぐしゃになりかけた思考がとっ散らかっていくのを感じていると、いきなり先端に濡れた感触を覚えて体が震える。
まさか、と両手で覆っていた指の隙間から恐る恐る自分の下腹部の方を見遣ると、スンスンと匂いを嗅いでいたクリプトがまたそこに舌を這わせているのが見えた。
「な、っぁ! あ……クリプちゃ……、俺、【ゲーム】の後にシャワー浴びただけだから、汚いし、それはやめ……!」
止めようとする俺をまたもや上目遣いで見てきたクリプトは、俺の言葉を聞いた瞬間に口を大きく開けた。
あ、と思った時には既に遅く、俺の息子は可愛らしいクリプトの口いっぱいに頬張られてしまう。
久しぶりのフェラに腰が抜けそうなくらいの快感が背中を這いあがってくるのを感じて、両脚がシーツを蹴るように、もぞもぞと動くのを止められない。
しかも、クリプトはわざとらしく濡れた音を立ててしゃぶってくるものだから、指の隙間から見えるだけではなく、耳からもジュルジュルといやらしい音が押し入ってくる。
コイツ、俺が知らなかっただけで実はサキュバスだったりしないだろうか。それとも血を求める代わりに快楽を与える吸血鬼か。ハロウィンにそれっぽいスキンを身に纏い、ちっとも怖くない可愛いポーズをしていた時点で怪しいと思ってたんだ。
余りにも刺激的な光景と快感にワケの分からない考えが巡る。それと一緒に唇からは勝手に喘ぎが洩れた。
「っく、……ん、ぅ! クリプちゃん、……クリプトッ……ダメ、だって……なぁ、俺、出ちまうってぇ……!!」
「……はぁ……ハハ、随分と情けない声を出すじゃないか。こんなにデカくして蒸れた匂いをさせてるクセに」
「ば……っぁあ、あ……先っぽは……弱いから……っひぅ!」
「ん? ここか? ……そうか、ウィットは先端と裏筋が弱いんだな。……次からの参考にさせて貰おう」
裏筋を丹念に舐められ、玉を揉まれて、竿を扱かれる。その間にも絶え間のない音が俺に襲い掛かり、ついに出そうだと声を上げた瞬間、やっと顔を離して貰えた。
匂いの事を指摘されれば、またもやビクリと体が震えてしまう。だって、そんな風に言いつつもクリプトの目は相変わらずとろけている。
そうして、ゆるゆると指で労わるように撫でられて、ついそう言ってしまうと、少し強い力で先端を擦り上げられ声が裏返る。
しかも最後の言葉に動揺して、上手く声が出ない俺を尻目にまたもや顔を戻したクリプトが、言葉通りに先端と裏側を攻め立てるようなフェラを再開する。
「お、っぃ、ダメだ……ダメだって、クリプトッ……出る、……でる……!!」
先ほどよりも確実に追い立てるような動きに堪えきれず、クリプトの頭を押さえ込んで口の中で達してしまう。
ヤバいと思い謝るよりも先に、ペニスから口を離したクリプトが顔を上げ、かぱりとその唇を開いた。
真っ赤な舌の上で白い乳白色の体液がライトに照らされてハッキリと見える。
お前の出したモノはこんなに多いんだと見せつける様な素振りに、喉が鳴るのを抑えきれない。
そうして少しの間を置いてから閉じられた唇がもごもごと動いていたかと思うと、眉を顰めたクリプトの喉が動いた。
……え? コイツまさか飲んだの? という思いをそのまま顔に出していたらしい俺を見たクリプトは、苦そうな顔をしながらも妖しく笑う。
やっぱりクリプトはサキュバスだ。間違いない。そうでなければこんなにいやらしい行為を、安々とやってのけるなんて信じられない。
そもそも常に皮肉屋で俺をバカにしてくるような奴なのに、ベッドの上では色っぽくて積極的だなんて聞いていない。
「随分といっぱい出たじゃないか、小僧、溜まってたのか? ……可愛い奴め」
その上、ポンと頭に手を乗せられて、くしゃりと柔らかく髪を撫でてくれるなんて、違う扉をもう開きかけている。
個人的には今までずっとコイツには負けたくないと思っていたし、今だってそれは勿論、思っている。
だが、こうしてベッドの上で優しくリードされながらも奉仕されるのは、正直、クるモノがあった。
出したばかりだというのにまたもや元気を取り戻し始めた息子に目を向けると、同じくそこを見つめたクリプトが苦笑する。
止めてくれ、その、いかにも「仕方が無いな」という甘い苦笑は、もっと元気に育ってしまう。
「ウィット」
「なんだよ、クリプちゃん……」
「お前、部屋にローションとかは置いてないのか」
「いや……流石に置いてねぇよ……俺、ここには仮眠取る為にしか来ねぇもん」
「そうか。……少し待ってろ」
明け透けに言われたローションという言葉に、そう言えばまだ本番すらしていない事を思い出す。
でも、誤解されたくは無くて、仮眠を取るだけの部屋なんだと改めて伝えると、僅かに考える素振りをしていたクリプトが一度ベッドから降りて店の方へと戻って行ってしまった。
代わりになるような物でも探してくるのだろうか。そもそも、向こうが挿入される側なのだとして、何から何まで任せっきりで良いのか。
ベッドの上で一人考え込んでいると、出て行ったドアを開けて戻ってきたクリプトの手には調理場から持ってきたのだろう封の切られていないオリーブオイルのボトルが握られていた。
なるほどな、と納得する自分の前で再びベッドの上に戻ってきたクリプトは、そのボトルをシーツの上に置いてから、躊躇い無くスキニーを脱ぎ始める。
そうして脱いだスキニーと下着をベッド横に落としたクリプトの生白い腿に目を奪われていると、再び跨られ、オリーブオイルの封を開ける姿を見せ付けられる。
トップスに丈の長いグレーのタートルネックニットを着ているクリプトは、上手い具合に下腹部が見えないが、これから何をしようとしているのかは理解出来た。
慌てて上半身だけを起こすと、驚いたような顔をして少し後ろに下がったクリプトと目が合う。
女性との性行と違って、挿れる場所を慣らす必要があるというのはクリプトへの好意を自覚したタイミングで魔が射して調べた事があった。
きっとそれをしてくれようとしているのだろうクリプトを黙って見ているワケにはいかない。
「それは俺がやる……やらせてくれ」
「出来るのか? お前、ヘテロだろう」
「それはそうだけど、そうじゃない! ……ちゃんと出来るから……だから俺がやりたい」
「……痛くするなよ」
ふ、と笑ったクリプトがそう囁く。俺に気を遣ってリードしてくれていたのだとしたら、こちらとしても男の意地を見せねばなるまい。
クリプトが途中まで封を開けかけていたオリーブオイルを開けて、トロリと流れる黄色く透き通ったオイルを右掌にまぶす。
そうして蓋を閉めたボトルをベッドに置いてから、クリプトの服が汚れないように左手で服をたくし上げつつ、指先だけの感覚で丸みを帯びた尻の境目をなぞる。
なぞった先にある窄まりを指でノックしてから入れ込ませれば、堪える為なのか俺の両肩に手を乗せたクリプトの指に力が籠った。
膝立ちのような格好になっているクリプトが見下ろしてくるのを確認しながら、出来る限りゆっくりと中を探っていく。
挿れる時はキツイが、中に入ればふかふかとしていて熱いくらいのソコが時折ピクピクと蠢くのを直で感じ取る。
「ん、……っく……ぁ……」
「悪い、痛いか? もっとゆっくりした方がいいよな」
「だい、じょうぶだ……逆にもっと奥までいれても良い。……んぁ、……そこ……!」
「え、ぁ、……ここ?」
「……はぁ、あ……そう、そこだ……上手じゃないか、小僧……」
肩に触れていた手が俺の頭を可愛がるかのように撫でる。
一つずつ確認する方が良いだろうと声をかける俺に、淡く微笑んだクリプトは一歳しか歳が違わないというのに随分と"大人"に見えた。
かなり甘やかされている自覚を持ちながらも、もっと褒めて貰いたくて先に入れていた中指に添わせるように人差し指も中へと入れ込む。
途端に背をしならせたクリプトの気持ちが良いと言っていた場所を擦り上げれば、へこへことクリプトの腰が微かに動いて腿が震えているのが分かった。
ちゃんと俺の指で気持ちよくさせてあげられているらしい。その事に嬉しくなって、さらにそこを拡げるように指を動かす。
あっという間にもう一本も飲み込めそうなくらいになったそこに、今度は薬指も併せて押し入れれば、俺の髪を撫でていたクリプトの指が止まった。
「ぉ、……っぁ、あー……ん、っあ……!」
「なぁ、クリプト、俺ちゃんと出来てるか? ……ちゃんと気持ちいい? 嫌じゃないか?」
「っは、……はー……ん、っぁ……出来て、る……気持ち……い……ぞ、……ウィット……」
「良かった……俺だけが気持ちいいんじゃ、ダメだから……」
「……ほら、……ウィット……お前は上手に出来たから、ご褒美をやる……一回指を抜け……」
必死になって指を動かす俺の頬を両手で包んだクリプトが赤い顔をして太い眉を下げながらも、「出来ている」と褒めてくれた。
それだけで再び腹に付きそうな程に反り返ったペニスが痛い。
そのまま俺の肩に手を添えたクリプトの手に誘われるように、持ち上げていた上半身を後ろに少しだけ倒す。
すると、肩に添えていた手の片方を腹に、そうしてもう片方を俺のペニスに添えたクリプトが先ほどまで俺が拡げていたアヌスに先端を押し当てた。
そこまでして、そう言えばスキンをしていないと思ったものの、それを口に出す前にぬるぬるとした肉壁にペニスが包まれる感覚に声が上がる。
「あっ! ぐ、ぅー……っは、ふ……クリプト……クリプトッ……!」
他人の体内というのはこんなに気持ちが良かっただろうか。唇から気持ちよさのせいで伝う唾液もそのままに目の前で跨る男の名を呼ぶ。
歯を食い縛ってじわじわと俺のペニスを飲み込んでいくクリプトの尻が腹にぴったりと張り付く感覚。
汗ばんだ身体を支える肘が震える。最後まで埋め込まれて思うのは、やはりクリプトの中は余りにも心地が良すぎるという事だった。
キュウキュウと入口が絶え間なく根元を締め付け、それでいてふわりととろけそうな熱い内壁が今にも動けと言わんばかりにこちらのペニスを抱きしめてくる。
そのくせ、目の前のクリプトは苦しいだろうに優しい笑顔で俺の頬を撫でてから、口付けてくるのだ。
絡み合う舌先と、うっすらと開けた瞳の先には瞼を緩く伏せたクリプトが居て、離れた時にはまた微笑まれる。
――――こんなのは、ダメになってしまうに決まっている。
「んぁ、ぐ、……っぐぅ……クリ、プトぉ……」
「なんだ……、っ……ウィット……、お前、……名前よく呼ぶなぁ……っは……」
「だって、だ……っぁ、あ……それ、やばいって……」
「っはぁ、あ……中でビクビクしてるな……、……かわいい……、んぅ……!」
そうして不意にベッドについていた両膝を立てて広げる体勢に変えたクリプトが、俺の腿を手で掴んで支えにしながら騎乗位の状態で動くものだから、ただでさえ気持ちが良いのに意識が飛びそうなくらいにペニスが脈動する。
確かに抱いているのは俺の筈なのに、これではまるで俺の方がクリプトに抱かれているかのようだ。
いつもは自分が全部リードしているから余裕があるが、クリプトとのセックスは何から何までクリプトのリードで進んでいる。
だからこんなにもいつも以上にだらしなく声を上げてしまう。
そもそも、好きな相手にここまで愛しあっているような手付きや声で触れられれば、誰だっておかしくなる。
そうやって自分に言い聞かせながら、クリプトの腰に手を当てて今度は自分から腰を動かす。
「クリプト……ッ……好きだ……すきだ……」
「あぁ!! ……ひ、……や、ぁ……んぅ……ぁあ……!」
「くっぅ、きもちい……、……好きだよ……クリプト……お前、……本当に、最高……っぁ!……う……」
そういえば一番大切な事を言っていなかったと、浮かされるままに愛の言葉を囁く。
途端に中を締めたクリプトをそのまま押し倒して、両膝の裏を抱えるようにしながら奥を突き上げれば、ずっと服で隠れていたクリプトのカウパーでベタベタになったペニスが揺れ動いている。
「クリプト……気持ちいい……俺、……はっ……うぅー……ッ……」
余裕ぶっていたけれど、クリプトだって俺に挿れられて気持ちが良いんだと間近で見せつけられたその光景に、ゾクリと背中が震える。
その上、好きだと声に出した瞬間から目を泳がせ、顔を隠そうとしたクリプトの顔がもっと見たくて、顔を近づけキスをする。
キスは拒否されないだろうと予想した通り、動物のように舌を出したクリプトの唇に唇を押し当て舌を絡ませた。
欲しい、もっと、この男のあられもない姿や俺を求めて、そうして褒めてくれる姿が欲しくて堪らない。
だからさっきクリプトがそこだと言った場所目掛けて強く腰を打ちつけると、キスをしていても洩れ出るくらいの喘ぎ声をあげたクリプトが俺の肩に爪を立てた。
そこで一度顔を離すと呼吸が荒くなったクリプトと目が合う。
本当に余裕が無い。ただクリプトの身体を抱き締めて、奥を突いてやる事しか考えられない。
そんな俺の思考を読んだのか、肩を掴んでいた手の片方を自分のペニスに触れさせたクリプトが親指と人差し指で輪を作り、ちゅくちゅくと音を立ててそこを扱く。
男なのだから、いくらなんでも後ろだけの刺激では達せないのだろうという事にそこでようやく気が付いたが、俺の言葉を待つ前にクリプトが荒い息のまま囁いた。
「俺のは良いから……お前が一番気持ち良くなるような動きをしろよ……」
「でも……」
「……お前の必死になっている姿が見たいんだ……見せてくれ。……出来るだろ……ウィット?」
会話の合間にも自分で自分の前を弄るクリプトの指が亀頭を擦り上げ、透明な糸をひく。それと一緒に、はぁ、と艶かしくクリプトが熱された息を吐き出した。
あぁもう我慢なんて出来ない。俺は再びクリプトの唇を塞ぐと自分の欲求のままに腰を回してはクリプトの中を犯す。
ぶちゅぶちゅという卑猥な音が部屋中に響き渡り、もごもごとクリプトが何かを言っている気もしたが、今は止めてやれない。
だって、クリプトの中に出してやりたくて、腰が勝手に動いてしまう。奥へ奥へと押し込んで、一番の奥底に俺の種を注ぎ込んでしまいたかった。
「っむぐ、うー……いぁ、あ……ん、っひ……ぁ――――……!!」
「ふ、……っぅ、ぐぅ……ッ……ん……っ……!!」
バチュン、と一部の隙間も無い位に叩きつけたタイミングで許可も得ずに中へと注ぎ入れる。
流石にそれはダメだと思いながらも、きっと今のクリプトなら一生懸命に謝れば許してくれるような気がしたからだった。
睾丸が震え、腹の奥底から湧き上がるような快感のままに最後の一滴まで押し込むような腰遣いで本能のままに種付けをした後は、緩やかな倦怠感が襲ってくる。
そうして押さえ込んでいた唇を離し、くったりとしたクリプトが下に居るのを見つめる。
涙と唾液で濡れた目元と頬、蒸気した顔と、細まった瞳を縁取る睫毛がキラキラと光る様が綺麗だ。
腰を掴んでいた手を離し、そんなクリプトの顔を撫で擦る。そうして手の甲で拭うようにそこを擦ると、目元を赤くしたクリプトが俺を見上げてくる。
「……お前、……中に出したな……」
「ごめん……、クリプちゃんが可愛くって、どうしても出したくなっちまった……ごめんな……嫌だったよな……」
「…………嫌ではない……が、……とりあえず一度抜け……苦しい」
「……ん……なぁ、……抜いてからギュッてしていいか?」
俺の言葉に呆れたような顔をしながらも、小さく頷いたクリプトの中に埋め込んだペニスを抜く。
温かな中から出ると、それだけで寒さを感じて体が震える。
そうして腹を押さえたクリプトの下腹部に視線を向ければ、開かれた両脚の間、先ほどまで埋め込まれていた場所が赤く熟れた果肉のようにぷっくりとしており、白く濁った精液がドロリと零れ落ちる。
これが全部自分が吐き出したモノなのだと見せ付けられる感覚に、萎えたペニスがまたもや熱を帯びそうになってくる。
こちらの視線の先に気が付いたらしいクリプトが下腹部に触れていた指先を滑らせ、着ていたグレーのニットをたくし上げた。
途中からピストンのせいで隠れていたしなやかな腹筋から胸元までが露わになり、クリプトの濡れそぼったペニスから吐き出された精液が腹を汚しているのが見える。
ちゃんとクリプトも俺とのセックスで気持ちよくなれたのだというのが分かって、堪らない気持ちになる。
その上、トップスを捲り上げた指先が微かな黒い下生えの並んだ鼠蹊部を撫で、そのままさらにふっくらとした睾丸の脇を通り、確かめるように窄まりを弄っていく。
人差し指と中指で広げられたアヌスの奥から、さらに精液が洩れ出てくるのが分かって、思わず喉が鳴った。
「……こんなに沢山出すなんて……ほら、奥の方まで入ってる……全部掻き出すのが大変そうだ……なぁ、ウィット……?」
それに加えて、愉しそうな笑みを見せたクリプトがそう囁くものだから、堪えきれずにその体に抱き着いた。
そのまま笑っている唇を塞ぐようにキスをすれば、含み笑いをしているらしいクリプトの吐息が頭骨に響いて、萎えていた筈の息子もたちまち回復してしまう。
初めてなのだから大切に抱きたいと思っているのに、それ以上に小悪魔のような反応をするクリプトに煽られてしまう。
何もかも、コイツが俺を甘やかすからいけないんだ、という頭に浮かんだ言い訳を声に出すのは流石に恥ずかしかったので、敢えて腰を擦り付けひくついたクリプトのアヌスに先端を当てる。
そんな俺の行動に怒るかと思いきや、俺の両頬を手で包んだクリプトが優しさに満ちた瞳でこちらを見つめていた。
「なんだ、もっとしたいのか……ふふ……もう二回も出させてやっただろう。それでも足りないなんて、強欲な奴だ」
「……したい……クリプトとするの、……気持ち良すぎて、まだまだ出来そうなんだよ……な、お願い……もう一回だけ……」
目の下にある小さな泣きぼくろに唇を寄せ、自分でも犬のようだと思いながらも鼻にかかったような声でキュウンとわざと鳴いてみる。
するとそれに気分を良くしたのか、目を細めたクリプトが頬に触れていた手を撫で回すように動かしてから、自由になっている両脚を俺の腰に巻き付けてくる。
離さないといわんばかりの脚の動きに、許しを貰えたと理解して押し当てていたペニスをまたもや中に押し入れれば、足と腕の両方で強く抱きしめられた。
一回目よりも俺の形に馴染んでいるクリプトの中はやはり温かくて、気持ちがいい。
中に入れ込ませた精液とオイルがまだ乾いていないのもあるからか、湯の中のように温かなそこはまるで天国のように感じられた。
はぁはぁと荒い息を洩らすクリプトが頭を抱え込んでいた腕の力をそっと緩めて、俺と視線を合わせる。
「……お前だけだ……」
「へ……?」
「俺が……こんなに甘やかすのも、こんな事を許すのも……お前だけだ……」
「……うん……」
不意にそう言ったクリプトに、先ほどの俺の「好きだ」という言葉の返事なのだろうと察する。
もしもこんな事を他の奴にもしていたなんて言われたら、それこそ俺はこのままクリプトを手荒く抱いてしまっていただろう。
でも、そうでないのなら。この天国のような場所でもっとコイツを愛して、そうして愛されたい。
「……好きだよ、クリプト……だから、もっともっと俺の事、甘やかして……?」
「……仕方のない奴だな、……ほら、来い。……いっぱい抱きしめてやるよ、甘えたがりの坊やめ」
いつもなら言えないようなおねだりをしてみせれば、不敵な笑みでクリプトが笑って、そうして埋めているペニスをやわやわと中でも揉まれる感覚に熱い溜息のような深い吐息が出る。
あぁやっぱり俺の性癖はコイツのせいで少しばかり歪んでしまったかもしれない。
こんなにもクリプトに身も心も甘やされながら愛され、満たされるのが幸せに感じるなんて。
俺は早く動けという動きをしているクリプトの腹の中を堪能する為に、止まっていた腰を再び動かし始めたのだった。
-FIN-
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