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ダイニングのソファーで借りてきた猫のように座っているクリプトを気にしながら、使い慣れたキッチンで調理をする。
急に吐いたクリプトの体調が心配ではあったが、施設内で診断された結果は過度なストレスによる睡眠不足と栄養失調であった。
明らかに痩せてしまっているし、目の下の隈が気になっていたのにそれにもっと早く対処してやるべきだったとミラージュは自身の気遣いの足りなさを恨んだ。
クリプトの意志を尊重する事ばかりを優先して、自分の気持ちを押し込めすぎたのだ。
他人から常々お節介だと言われるような人間なのだから、好きな相手が苦しんでいる時くらいもっと世話を焼いてやれば良かった。
先ほど言われた言葉を気にしていないわけではないが、あれは恐らくクリプトの本心ではない筈だ。
何故なら家に来いと言った瞬間のクリプトの表情は安心したような、そんな顔をしていた。
本気で面倒だと思うのならあの場面できっともっと強く切り捨てただろうし、半ば押し込むようにではあるが自分の車に乗せた時も大人しく指示に従ったのだから。
ぐつぐつと小さな音を立てながら目の前で美味そうな匂いを発する刻んだショウガをたっぷりと入れ、さらに胃に優しい野菜と鶏肉、そうしてショートパスタを煮込んだチキンスープをかき混ぜながらミラージュはそんな事を考える。
D.O.Cドローンによる治療を受けたとは言え、あくまでも一時的なものだと治療にあたってくれた【ゲーム】の施設に居る衛生兵が言っていたのでやはり食事と睡眠を摂らせるのが第一に優先すべき事だと自宅に帰ったミラージュはクリプトを座らせるとすぐに調理を開始した。
手際の良さもあり、すぐに完成したそのチキンスープを陶器で出来た二つのスープボウルにそれぞれ掬い入れると、ステンレスで出来たフォークと一緒にソファーに座るクリプトの元へと持っていく。
「ほら、チキンスープだ。そんなに味も濃くしてないから食べられる分だけでいいから食え」
そう言ってソファーの前に置いてあるローテーブルにボウルとフォークを乗せ、クリプトの隣に座った。
そんなミラージュを黙ったまま見つめたクリプトはどうするべきなのかを迷っていたように見えたが、おずおずとその温かな湯気を発しているボウルとフォークを手に取り少しずつ食べ始める。
一人で食べるのは気にしてしまうかもしれないと、敢えて隣で並んで自分自身もチキンスープを食べ始めたミラージュは自分の料理の上手さに内心自画自賛しながら黙々と口当たりが良くなるように細かく切った野菜を口に運んでいく。
そんなミラージュの隣で、やはり腹が減っていたのかクリプトはそのボウルの中に入れたスープをあっという間に完食してしまう。
味は大丈夫だったようだと時折クリプトを気にしながら食べていたミラージュもまた、自分のボウルの中に入っていたチキンスープを飲み干した。
「美味かったか? おかわりもあるから入れてこようか?」
「……大丈夫だ……すまない……」
「謝るなよ、お前らしくもねぇ。それに食べただけ偉いぞ」
もう一杯いるかと言う声かけに申し訳なさそうにそう言ったクリプトに笑ってしまう。
衛生兵によると、恐らく数日は食事を摂っていないくらいの状態だと言っていたので、殆ど食べられないかもしれないと思っていたのだ。
だから本当に食べられただけで偉い、とミラージュはそう感じる。
長い間、何も入れていなかった胃に食物を入れるのを恐れる感情があるのをミラージュも知っていたからだ。
【ゲーム】に参戦して最初の頃に本気で死にかけた日、母が段々と自分の事を思い出せなくなっていくのを理解した日、そんな息苦しさに悶えるような日々の中で食事を摂るのが嫌になってしまうタイミングがミラージュにもあった。
そうして、その後にどうにか食べようとして本当に食べられるのか不安になる日も。
クリプトの苦しみを完璧に理解するなど不可能ではあるが、あれだけ楽しそうに話をしていた相手に距離を置かれ、周囲から疑われればおかしくなってしまうのは当たり前だろう。
「おし。じゃあ後はさっさと寝るんだな。明日俺もオフにして貰ったからこのまま泊まっていけよ」
シャワーはお互いに【ゲーム】が終わった後に済ませているし、服はこちらの物を貸してやればいいだろう。
一人で眠るのが出来ないと言っていたが、誰かの家で傍に人が居る状態ならば少しは眠れるかもしれない、とミラージュはクリプトを看病するつもりでオフを取ったのだった。
ミラージュはそう言ってから空になったボウルを重ねた上にフォークを入れて持ちあげると、キッチンにそれを持って行こうとするが慌てたように隣に座っていたクリプトが立ち上がろうとする。
その肩を軽く押してまたソファーに押し返すと、ミラージュは慣れた手つきで洗い物を済ませてから再びクリプトの隣に戻った。
【ゲーム】の時よりも顔色の少し良くなったクリプトに安堵しつつ、その顔はどうしたら良いのか分からない幼子のような表情をしている。
誰かにこんな風に看病をされたり心配された事が無いわけでも無いだろうに、と思うミラージュにクリプトは静かに囁いた。
「……ミラージュ」
「ん? あぁ、服なら俺のやつを貸してやるよ」
「そうではない……そうじゃ、なくて……」
何かを伝えようとするクリプトの話を急かす事無く聞く姿勢を見せようと、ミラージュはよく回る口を閉じてじっとその続きを待つ。
だが、悩んでいる様子を見せたクリプトは不意にミラージュの太ももに手を伸ばしたかと思うと、そこを指先で撫で擦った。
まさかのその行動にビクリと身体を動かしたミラージュの顔を見たクリプトはまたあの暗い目をしているのに気が付き、ミラージュは思わずため息を吐いた。
「お前、具合悪いんだからやめとけ。良いから早く寝ろ」
「……じゃあどうやって……」
「どうやってって、なんだよ」
「……良いからいつもみたいにしてくれよ。そうすれば大丈夫になるから……泊まるなんて、そんな気は無いんだ」
クリプトの言葉の意味が分からずにそう問いかけると、それをはぐらかされてさらに直接的に履いているスキニーの上からペニスを擦られる。
その手を掴んで止めるが、必死さを宿した瞳がミラージュを見つめた。
一体この男は何をこんなに焦ってもがいているのだろう。別にこんな行為をされなくたって、看病される事になんの負い目も感じる必要なんてないのに。
しかし掴んだ手を動かしたクリプトはさらにもう片手でこちらの頬に手を当て、無理矢理触れるだけのキスをしてくる。
「……おい、クリプト……」
「……頼むから……うまく、眠れないんだ……」
哀願するようなその声と瞳に、ミラージュの意志がぐらりと揺れ動く。
こんな風にしてくるコイツを育ててしまったのは他でも無い自分自身だ。
だからこそ、身を削ってでも体を繋げる事を望むクリプトを収めるのもまた、自分しかいないとミラージュは思う。
セックスはこんな風にボロボロになった時に行う救済の方法ではないのだと、クリプトに教え込ませるしかない。
ミラージュはもう片方のクリプトの手も掴み取るとしっかりとその暗い影を持つ瞳に自分の姿を映した。
「分かった。抱いてやる。……でも、今日は俺のやる事にケチをつけるな」
「……ケチってなんだよ」
「どんな風にされても文句を言うなって事だよ。……お前、どうせ今日もあの目隠し持ってるんだろ」
「あぁ……あるが……」
こちらのその強い眼差しに戸惑うような顔をしたクリプトは視線をシャワーの後に着替えていたデニムのポケットに向ける。
それを確認したミラージュはその手を引いて立ち上がると寝室の方へと向かった。
□ □ □
いつもと同じように目隠しをしているクリプトの着ていた服とネックレスなどを全て脱がせてから自分の衣服も脱ぎ去ると、その唇に顔を寄せて触れるだけのキスを繰り返す。
かさついた感触のそこを何度か重ね合わせてから舌でそこを湿らせるように舐めると、微かに唇を開けたクリプトの口腔内に自身の舌を入れ込む。
並びのいい歯列をなぞり、奥で縮こまっている舌を絡めとってそこから誘い出すとトロリとした唾液が互いの唇を濡らした。
ちゅ、ちゅ、とリップ音と共に上顎のざらついた場所を舌先で触れると下に居るクリプトの体が跳ねる。
ここもコイツにとっては性感帯なのだという事を記憶したミラージュは、そのままその上顎を舌先で擦りながら目を覆っている布を避けるようにしつつ、クリプトの金属製のデバイスが取り付けられた耳に触れた。
ひんやりとした冷たさを持つそこからさらに指を動かして、一度顔を上げる。
「……っは……」
「クリプちゃんはキス嫌いか?」
「……嫌いとか、好きとか、そういうものじゃないだろう」
「じゃあもうちょっと激しくてもいいって事だよな」
「なに……んっぅ! ……う」
生意気にそう言ったクリプトの唇にまた唇を触れ合わせ、今度はもっと強くその上顎をなぞり、舌を絡ませそこを啜る。
ジュルジュルという水音が響く中で呼吸が苦しいのかこちらの胸に手を当ててきたクリプトを無視して、今まで出来なかった分を埋めるようにその吐息を奪う。
本当はこうしてたくさんキスをして、この偏屈な男が次第に柔らかく蕩けていく様をずっと見たかった。
もう我慢するのは止めだと、絞るように男の舌を吸い上げてからようやく唇を離すといつもとは違い、くったりとしたクリプトの姿があった。
そうして顔につけられたデバイスと繋がるように取り付けられている首元のデバイスに今度はキスを落としながら、両手で確実に薄くなった体を擦る。
そのまま冷えた体に体温を分け与えるように、掌をピタリと触れ合わせながらささやかについているニップルに触れる。
そこを指の腹でつまんだり擦ったりするうちに次第にぷくりと膨らみを持ち始め、クリプトが体をくねらせその感触から逃れようとするのを押し留めるように吸い付いた。
「っひ、……それ、くすぐった……」
そんな声を上げたクリプトはこちらの髪に手を伸ばして止めるように抵抗してくるが、また無視をして舌全体を使って舐めあげた後に舌先でそこをつつく。
くすぐったいと声を上げるクリプトの言葉とは裏腹に、すでにクリプトのペニスはじわりと熱を帯びて勃ちあがり始めていた。
コイツの気持ちが良いと思う部分をじわじわと探り当てていくこの行為に、今までのセックスとは違う精神的な充足感を覚えながら、ミラージュは顔をあげてクリプトの唇にキスをする。
「くすぐったい? いいじゃないか。……そうやって素直に言うお前、可愛いぜ」
「か、わ……なにを言っている! もう、良いだろう、いつもみたいにしてくれ」
「ダメだ。最初に言っただろう、今日は俺のやり方にケチをつけるなって」
可愛いという言葉に露骨に反応したクリプトにコイツは言葉で言ってやる方が良いのかもしれないと思う。
近づけていた顔を離し、今度は引き締まりながらも痩せた腹筋に顔を寄せてキスを落としていく。
「全く、こんなに痩せちまって……もっと美味いもん明日は食わせてやるよ。ミラージュ様の特製フルコースだ、きっと美味過ぎてすぐに元に戻っちまうな」
「……ミラージュ……」
「え? フルコースだけじゃ足りないって? そしたら仕方ねぇ、本当はいけないんだが……特別に3時のおやつもつけてやるよ」
フ、と含み笑いをして腹部の下にあるすっかり勃ちあがったクリプトのペニスに息を吹きかけそう言う。
途端に期待するように先走りを零して微かに動いたそこにまでキスを落とすと、見えていないながらも何をされるか分かったらしいクリプトが声をあげた。
「待て、お前はそんな事しなくていい! 頼むからそれは……」
「おいおいさっき言ったろクソガキ……いや、お前のが年上だからおっさんか。何度言わせるつもりだよ。俺のやり方にケチつけるなって」
焦ったように体を後ろに引こうとしたクリプトの腰を掴んで元の場所に戻しながら、そう言うとわざと唇から濡れたリップ音を立ててやる。
目を塞がれたままのクリプトにとってはその音はひと際大きく聞こえる筈だと思っていると、予想通り掴んでいる腰が揺らめいた。
ダメだと言いながらも快楽を求めている姿は、もっともっと欲しがる分を全て与えては乱れさせたくなる。
何も分からないようになるセックスというものは本来こういうモノなのだと、その強情な身体と心に染み込ませてはその牙城を崩してやりたい。
そして、出来る事なら全てをさらけ出して俺を求めて欲しい。
「それに俺の目の前でこんなに美味そうになってるのを放っておけってのが、無理な話だ」
そのまま自身のモノよりは少しだけ小ぶりなペニスに顔を寄せ、全てを口の中に含ませると舌を目一杯使用してそれを包んでしゃぶり尽くす。
声にならない声をあげたクリプトはその背をしならせて片手でこちらの髪を掴んだ。
痛くはない程度に引かれる感覚に、愛らしさを覚えながらさらに唾液をたっぷりとまぶすようにねぶっては吸い上げると青臭い匂いが口腔内に広がる。
「っぁ、あ! ……ん、……ミラージュ……やめ、ろって……!! ……うぅ……」
今までに聞いた事の無い甘い声を出したクリプトは、慌てたように文句を言いながらもその口を閉じてしまう。
もっとクリプトの掠れた艶のある嬌声を聞きたいと、ミラージュは敢えてさらに舌の動きを強めると、唇を噛み締めているのかくぐもった声が聞こえてきて、舐めていたそこから顔を離した。
「こら、唇を噛むなよ。傷ついちまうだ、ろ……」
そうしてクリプトの顔を見ると目隠しがじっとりと濡れるくらいに泣いているのが分かって、ミラージュはその目隠しの結び目に指をかけるとそれを外してやる。
ぐずぐずと泣いているその瞳の下瞼に唇を触れさせると、そっとその頭を撫でた。
「どうしたんだよ、まさかそんなに嫌だったのか?」
「……ちが、う……」
「……ならどうした……怖くなったのか?」
その問いかけにフルフルと頭を振ったクリプトを宥めるようにゆっくりと撫で続けていると、ミラージュから逸らしていた目を合わせたクリプトが小さく囁いた。
「……なぜ、こんなに……」
「……ん?」
「……優しく出来る……? 俺はお前に酷い事を言ったのに……」
ポツリポツリと涙まじりに言われる言葉に、ようやくミラージュはクリプトの奥に隠れていた柔らかな心が現れた事に喜びを覚える。
これがクリプトの本音だとしたら、なんて単純ながらも繊細で可愛らしい本音なのだろう。
「そんなのお前の事が……お前が、……大切だからに決まってんだろ」
「……俺が?」
「そうだよ。お前は俺がなんとも思ってない男を簡単に抱くような奴に見えるのか?」
分からせるように自分の気恥ずかしさを抑えながら本音を話す。
クリプトがやっと伝えてくれたのだから、こちらも言わなければフェアではないだろう。
その言葉に黙りこくったクリプトに、まさか本当にそういう奴だと思われていたのかとショックを受けそうになるが、そうでは無かったようで何を言うべきかを迷っているだけのようだった。
なので今まで言えなかった事を全部ここで言ってやろうとミラージュは口を開いた。
「……お前が自分を傷付けるためにこういう事をしたがってるのは分かってた。だから、本当はもうしないつもりだったんだ」
「でも、放っておけばお前はその内に死んでしまいそうな気がして怖かった。俺は……俺は、お前を死なせないようにしたかった」
「他の奴らが何を言ったとしても、俺がお前を守ってやる。お前の潔白を、俺だけは絶対に信じる」
一言ずつ伝える度に、クリプトの目から涙が溢れ落ちるのを指先で拭いながらミラージュは真剣にそう言ってから笑ってみせた。
「そんなに泣いたら目玉が溶けちまいそうだな。俺がいじめてるみたいだから、そろそろ泣き止んでくれよ。クリプト」
「……ウィット……」
ありがとう、とクリプトは涙を拭う指先に頬を摺り寄せて聞こえないくらいの声でそう囁いた。
あの獰猛な目をしていた獣をやっと自分の手の中に捕まえて、そうして手懐ける事が出来た事にいるかどうかも分からない神に感謝する。
しかし、クリプトに伝えた言葉は全て本当の事ではあるが、クリプトからの返事を聞いていない。
「なぁ、クリプトは……俺の事をその、……本当は、どう思ってるんだ?」
その言葉にまた黙り込んだクリプトは、しっとりと濡れた目でこちらを見てくる。
言葉にしなくとも分かるだろうという表情をしているが、こちらはつい先ほど冷たい言葉で拒否をされたばかりなのだ。
こちらが全部手の内をさらしたのだから、クリプトにも言葉で伝えて貰わないとフェアじゃないだろう。
期待したような目をしているらしいこちらの顔を見ていたクリプトは、その赤くなった目元以外もほんのりと赤くさせながら小さく聞こえないくらいの声で囁いた。
「……お前ほど、優しい男は……いないと思う」
「……そりゃあ光栄な話だな」
「ん、……その、……なんだ……こんな風になってしまって申し訳ないとも思ったが……」
「んん? それってつまり俺はお前にとってなんなんだよ」
随分と回りくどい言い方をする、と思わず急かすような声をかけてしまう。
素直になれないのも愛らしいとも思うが、今は直接クリプトの口から聞きたい言葉がある。
「……俺にとっても……お前は……大切な、人だ……だから、傍に居て欲しいんだ……ウィット……」
「あぁ、もちろんだ。嫌って拒否されても、もう離してなんかやらないからな」
欲しかった言葉を言われて、その体を強く抱きしめる。
なんて愛らしい可愛い俺のクリプト、例え世界がお前に牙を向いても俺がお前を守ってやる。
そんな感情のまま、また顔を近づけてキスをしようとするが、一瞬迷う。
こちらは気にしないが、本人は自分のモノをフェラされた後にキスをされるのは嫌かもしれない。
そんな風に考えていると、不意にミラージュの方に顔を寄せたクリプトが甘えるように唇を合わせた。
「……っは……う……ぅ」
それならばとまた舌を絡ませると今度はクリプトの方からも明確にキスを返してくる。
心地良さの波に溺れるように互いの口腔内をまさぐり、内壁を擦ってはそのぬるついた感覚に酔う。
そのまま唇を離すとどちらの物かもわからないくらいに混ざった唾液が互いの舌に細い透明な糸をかけた。
「……きもちいいな。なぁ、お前もそう思うだろ」
「……ん」
素直に頷いたクリプトに、胸がきゅうと締め付けられる思いを抱きながらもミラージュは再び迷っていた。
先ほどは抱いてやると宣言したものの、相手はまだ本調子ではないのが分かっているのに負担をかけるわけにはいかない。
しかし互いのペニスは腹につきそうなくらいに反り返り、早く熱を発散させろと主張している。
気持ちを伝えられただけでミラージュとしては十分に今日は収穫を得られたのだからここで止めるか、扱くだけで終わりにするべきだろう。
だが、そんなミラージュを見ていたクリプトは先に進めない事に疑問を覚えたのか声をかけてくる。
「続き、しないのか?」
「いやー……そういうわけじゃないんだが。……お前が辛くないかなと思ってさ」
「……辛くない、から……その……」
「本当か? 俺は無理はさせたくないんだよ。挿れなくたって、満足できる方法はいくらだってあるしさ」
心配そうにクリプトの額に手を当てたミラージュの手を取ったクリプトはその指を唇に当てたかと思うと、煽るように口に含んで舐める。
チロチロと赤い舌が指をしゃぶる感覚と、上目遣いでミラージュを見てくるクリプトは余りにも淫猥な気配を宿しており、ミラージュは自分の喉が興奮から鳴る音を聞く。
そうして唇から指を抜いたクリプトはその舌を誘惑するように緩慢な動きでしまった。
「お、まえ……どこでそんなの覚えてくるんだよ。マジで……」
「さぁな……それより、……本当に抱いてくれないのか? ウィット」
「わーかった。分かった。降参だ。明日の俺がきっと甲斐甲斐しくお前が嫌っていうまで看病してやるから、今日の俺はちょっとだけ我儘にさせて貰う」
クスクスと笑ってそう言うクリプトは今までの諦めたような冷たい瞳とは違い、熱っぽい視線でミラージュの屹立したペニスに視線を向ける。
そんな目で見られたら断れる筈がないだろうと、ミラージュはサイドチェストに手を伸ばすとその引き出しに入れてあるローションとスキンを取り出す。
ボトルの蓋を開け、中に入っている透明なローションを掌に出したミラージュはそれを揉むように温めてから、昨日も自分を受け入れたクリプトのアヌスに指を這わせた。
つぷりとそこまで抵抗も無く入った指に、ベッドの上で堪えるようにしているクリプトの内部をゆっくりと探っていく。
もう何度か抱いているからクリプトの悦い部分は記憶している。
ミラージュはクリプトのひと際感じるであろう部分を指で押し上げると、ビクビクと体を震わせたクリプトが声を上げた。
「あ、っぁ!……っふ……」
「こら、さっきも言ったろ。唇を噛むなよ、傷ついちまう」
「し……かし……俺の声なんか聞いたら、……お前、萎えないか……」
「はぁ? さっきの熱烈な告白をもう忘れたのかよ。お前の声だから聞きたいんだ」
「……ッ……」
「照れてる顔も可愛いな」
「バ、カ……なにいっ……ひぁ!……んぁ、あ……!」
また可愛いと面と向かってそう伝えるとこちらを批難しようとして口を開けたタイミングでその性感帯を押す。
思わず出てしまったというその喘ぎ声は今まで枕で押し込められていたのが勿体ないくらいに、こちらの欲をさらに煮詰めさせた。
もっとクリプトの快楽によって出る甘い喘ぎを聞いてみたいと、もう一本中に指を入れ込み内部をバラバラに広げる。
「っぁ、あー……んぅ、っぐ……ミラージュ……ッ……!」
「その声と顔、本当に最高にそそるぜ、クリプト……もっと見せてくれよ」
「ほんとうに……バカ、やろ……そんな、見るな……ってぇ……は、ぁ、……あ……!」
「しょうがないだろ? ずっと見せて貰えなかったんだから、見れるなら見ておかないと損ってもんだ」
「も、いいから……早くブチ込めってぇ……っぁ、……この……小僧がッ……あ、っふぁ、……ぐ……!」
「ハハハ、いつもの調子が出てきたじゃないか。……ちょっと待ってろ」
罵倒混じりの喘ぎ声に笑ったミラージュはその中を解していた指を抜くと、スキンを着けてからクリプトの腰を掴む。
いつもはバックばかりだったから、今日は普通に身体を繋げようといつも以上に膨らんでいるペニスをクリプトの柔くなったアヌスにあてがい少しずつ中を押し広げていく。
何よりも自分のペニスを深く呼吸しながら受け入れてくれているクリプトの苦しげながらも満ちた顔が見られるのが何よりも幸せだった。
「クリプト、大丈夫か? ……苦しくない?」
「だいじょうぶ、だ……何回もお前のは咥えこんでるだろ……」
「そういう言い方はエロすぎるだろって……」
「……いまさらだな、……んっ……?!」
ふ、と笑ったクリプトの顔に思わず埋めていたペニスが脈動し、内壁を刺激したのかクリプトが驚いたような声を上げる。
余裕ぶったフリをしてみせているが、正直、今すぐにでもクリプトの中で腰を振ってその欲を発散させたい。
そんなこちらの気持ちを理解したのか、するりとクリプトのしなやかな腕がミラージュの肩にかけられそっと爪を立てられる。
「我慢強い小僧だ……好きなように動いていいんだぞ……?」
「……あぁ、そうかよ……ほんっとうに魔性な奴だよお前って奴は……!!」
「あ、っは……ぐ、……ぁ、あッ……あー……!!」
甘い声と焚きつけるようなその腕に、理性の糸がプツリと切れる。
素直になった男がこんなに蠱惑的にこちらを誘ってくるなんて聞いていない、と掴んだ腰に力を込めて猛ったペニスを叩きつけた。
バツバツと肉と肉がぶつかり合い、目の前で背を反らせたクリプトのデバイスが取り付けられた首の喉仏が荒い呼吸によって上下するのを見ながら一番感じるだろう場所を押し上げる。
皮膚と皮膚が密着し、流れた汗が互いの隙間を埋めるようにその上で混ざる。
本来なら気持ちが悪い筈のその感覚は、冷えたクリプトの肉体に自分の熱を分け与えているようでミラージュは今までにない満足感を覚えていた。
「っふ、あ、ああ、ッあ゛ー……!! ん、……っぐぁ、あ……あ!!」
「クリプトッ……くりぷと……、っ……」
「んん……っぁ、ぐ……うぃ、っと……うぃっと……!」
「だ、から……可愛すぎだって……、お前……ッ……ほら、……顔こっち向けろ……」
「……っは、ぁ……あッ……あ……」
涙で濡れた目をこちらに向けたクリプトの唇を塞ぎ、舌を絡ませてまじわった唾液を嚥下する。
そのまま汗で張り付いた髪をどけてからクリプトの額にキスを落とすと腹の間でベタベタになっているクリプトのペニスを片手で扱きあげ、より一層高めてやる。
それと同時に腰をまた動かすと背に回されたクリプトの爪がさらに食い込み傷を残す。
痛い筈なのに、なりふり構わず縋られるその感覚はこちらの悦びを引き出すスパイスになる。
「っぁ、あ゛ぁ!……ん、んぅ……っはあ、あ゛……!!」
「う、っぐ……クリプ、ト……ッ……!!」
ミラージュはそのままピストンの速度を上げると、背筋を這い上る欲求に導かれるままスキン越しにクリプトの奥に精を吐き出した。
その突き上げに追い立てられるように自身の腹に吐精したクリプトは、ぐったりと瞼を閉じて吐息を洩らす。
流石に無理をさせてしまったとミラージュは急いで埋めていたペニスを抜くと、クリプトに声をかけた。
「クリプト、平気か……って平気じゃないよな……」
「……ん……」
「後は全部やっておくから、もう寝ちまいな」
自身のペニスに取り付けたスキンを処理してから、クリプトの頭を撫でると疲れたのか安らかな寝息を洩らすのが聞こえた。
いつもは終わるや否やさっさと帰ってしまうクリプトが今日は疲れているのもあるだろうが、こちらに全幅の信頼を寄せているのが分かってミラージュは一人ニヤつく顔を抑えきれなかった。
しかしニヤけている場合ではないと慌てて自身の服を着ると、とりあえずクリプトの腹にかかった精液をティッシュで拭ってからベッドの上にあるブランケットをかけてやる。
ただでさえ体調を崩しているのに、このままでは早く身体を拭いてやらないと本格的に風邪をひいてしまうだろう。
看病をするつもりでオフを取ったのに自分とのセックスの所為で体調をより悪化させてしまったら目も当てられない。
だが、未だに身じろぎ一つせず心地良さそうに眠っているクリプトを見て、やはりミラージュは自然と笑みが浮かぶのを抑えるのが出来なかった。
「おやすみ、クリプト……今夜は良い夢が見られるといいんだが……」
そうしてミラージュは眠っているクリプトの額にキスを落とすと、体を清めてやる為のタオルを取りに行くためにベッドから立ち上がり上機嫌でドアから出ていった
-FIN-
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