猩々緋




少し離れた場所で男が振るった赤い刀が斬撃音を響かせながら、残り一体となった虚無を裂く。
人気の無い高架下で、その音は驚くほど周囲に響くが、其れを聞くのは俺と男以外にはもはや存在しなかった。
そのまま、離れた男を見遣ると金と黒の二色から形成された髪と、黒い衣服が生暖かく、緩やかな風に揺れるのを見つける。
初めは男の持つ『断裂の免罪符』を奪うのが俺の使命だったというのに男との交戦やリンネとの邂逅を経て、今では男と共にこうして街に徘徊する虚無を殲滅するのが日課になっていた。
こんな風になるつもりなど無かったのに、気がつけば男は何処へでも俺を捕まえては連れて行ってしまう。
そんな事を考えながら男を見つめていると、街灯の仄明るい光に照らされた男が此方に振り向き、その『断裂の免罪符』を空間へと仕舞い込む。
そしてその刀身と同じく赤い瞳が此方を柔らかい光を灯して真っ直ぐ見つめてきた。


「そっちは終わったか?」

「……もう済んだ」

「相変わらずはえぇな、セトは。……っつーか暑くねぇか、今日」


笑みと共に向けられた視線に、勝手に瞳が逸れる。
しかし其れを気が付かれないように答えを返すと男が緩慢な動きで俺の方へと近づきそう言った。
―――最近の俺は、可笑しい。
男の紅玉のような赤い瞳で見つめられるとうまく呼吸が出来なくなるのだ。
別に男に何かをされたわけではない。
寧ろこの男は随分とマメらしく、なんの関係も無い他人である俺の分の料理まで作って振る舞ったり、俺の体調のほんの少しの変化でさえ見逃さず看病したりとともかくお人好しにも程がある。


「おーい、……セト、どうした?」

「ッ!……何でもない」

「疲れてんのか?」

「……ほんとうに、何でもない。……気にするな」

「……お前がそういうなら良いけどよ」


そんな事を考えていた俺は自然と黙り込んでいたらしく、此方をのぞき込んで来た男と至近距離で視線が絡み、体が跳ねた。
俺の行動に訝しげな視線を向けてきた男に誤魔化すようにそう言うと、納得はしていなさそうではあったがそれ以上男は問うては来なかった。
それを本当に有り難く思うのは、衣服の下の頬が熱を帯びているからだろう。
一体、何故こんなに心臓が鼓動を速めているのか。
元々冷えた筈の身体が男に近付かれるだけで火を灯したように熱くなる。


「……なぁ、暑くね?」

「え?……嗚呼……、今日は気温が夜に上がると言っていたからだろう。……動いたりもしたしな」


いきなりの男の言葉に、心の中を読み取られたかと慌てるがそんな筈は無く、俺は今日聞いた情報を話す。
そっか、と納得したように言った男はさらに続けて言葉を紡いだ。


「このままコンビニ行っても良いか?なんか冷たいもん食べたくなっちまった」

「好きにするといい。……まだ其処まで時間も経っていないしな」

「じゃあ、行くか」


今日は何時もより虚無の数が少なかった所為かまだ男の家に戻らなくとも心配はされないだろう。
何より、まだ男と二人きりで過ごす時間が欲しかった。
既に歩み出した男の隣に並ぶ為に歩みながら極々自然にそんな事を考え、勝手に一人で動揺してしまう。
誰かと一緒の時間を過ごしたいだなんて、今まで考えた事も無いのにどうしてか男とはなるべく共に居たいと考えてしまう。
しかも、二人きりでが良いなど本当に俺は壊れてしまったのかもしれなかった。
しかし其れを気取られる訳にはいかないと一人静かに息を吐き出し、今の思考を胸の奥に仕舞い込む。
この感情はただの勘違いで、例え、何かしらの情があったとしても其れはただの友情だろう。
今まで同じ年頃の友人というものを殆ど持ったことが無いから、距離の取り方が分からないだけだ。


「セト」

「……なんだ……?」

「なんだって……着いたけど、お前も行く?」

「……いや、此処で待っている」


そんな事を考えている間に小さな駐車場が併設されたコンビニが見えてくる。
この時間では殆ど人も居らず、煌々とした明かりが暗闇の中で妙にケバケバしくさえ見えた。
男は刃を仕舞い込めるので問題無いだろうが、此方は腰に短刀を身に着けている以上、偽誕者でもない一般人に会うわけにはいかない。
其れに気配を嗅ぎつけた敵が何時襲ってくるとも限らなかった。
それにもしも敵が来ても俺一人が戦い、始末出来るならそちらの方が良い。


「了解、ちゃんと此処で待ってろよ」

「……分かっている」


まるで犬か子供のような扱いに僅かに眉を顰めるが、其れに気がついたらしい男が苦笑してから片手を振った。
そしてそのまま言葉を続ける。


「なら良いけどよ。……あ、セトはなんか欲しいもんある?」

「俺は別に……、お前が欲しい物だけ買えば良いだろう。俺の事は気にするな」

「気にするなって、気になるから仕方ねえじゃん」

「……は……?」


一瞬、男の発言の意味が分からずにいると何故か困惑したような顔をした男が一度咳払いをする。


「まぁ良いや、行ってくるな」

「……ん」


俺に律儀にもそう言った男が自動扉を潜って店に入るのを見てから建物に背を向け暗い空に瞳を向ける。
久方ぶりにじっくりと眺めた空に浮かんでいる月と星に、少しだけ驚いた。
虚無と戦う時もそうだが、普段こうやって空を眺める事等殆ど無い。
それは其処までの余裕が自身の中に無いからだろう。
たまにはこうして周りを見回す時間を作るのも悪くないものだと考えていると再び自動扉が開き男が戻ってきた気配がする。


「お待たせ」


視線を男に向けると小さなビニール袋を持った男が此方に近づきながらそう囁いた。
別に其処まで待っていないのに、と思いながらも男に向かって頷く。
このまま家に帰るのかと思っているとビニール袋に手を入れた男が何かを此方に渡してくる。
掴んだ品は冷たく、男を見つめると俺に渡したものとは違うパッケージの物を開けながら男が笑った。


「梨味よりこっちのが良い?」

「……いや……」

「アイス嫌いじゃなかったろ」

「……」

「どうした?」

「……俺の分まで買わなくても良かったのに」

「そっちの味も食べたかったんだよ。ほら、はやくあけねぇと溶けちまうぞ」


ふ、と微笑んだ男は開けたばかりの青い袋とビニール袋を片手で握りこんだかと思うと此方に手を伸ばしてくる。
男の意図している事を理解し、俺は手に持っていた商品の袋を開け、開けた後の袋を男に渡した。
それらをコンビニの前にある煤けたゴミ箱に捨てた男は水色をした四角い棒状の氷菓子に躊躇い無く口をつける。
俺は其れに倣う様に自分が開けた袋に入っていた薄い黄色の氷菓子を舌先で舐めてみると、想像していたよりもさっぱりした甘味に火照った体が冷えるのを感じた。


「久々に食ったけどやっぱ美味いな」


隣に居る男がそう言うのを聞きながら、舐めていた氷菓子を噛むとしゃりしゃりという音がする。
こうして男と共に二人並んで外で何かを食すのは初めての事だと考えていると不意に男が体を動かしたのが分かった。
そしていきなり男が俺の手を掴んできたかと思うと顔を寄せてきた。


「……セト」

「……っ……!?」

「一口頂戴?」

「……お、い……」


此方の名を呼んだ男が俺の声に答える事無く、俺が食べていた氷菓子を食べた。
まさかの展開に体が一瞬で固まってしまう。
何故俺の手から食べるのかと、動揺してしまうが反応をしないように固まったまま我慢する。
けれど全く反応をしない事は出来ず、顔を上げた男から顔を背けた。


「ん、やっぱりこっちも美味いな」

「……」

「……どうしたセト、顔赤いぞ」

「……いや……、気のせいだろう」


顔を背けた俺を追いかけるように掴んだままの手を引いた男が此方を覗き込んでくる。
どうしてわざわざ顔を覗き込んでくるのだろうと思いつつ、横目で男を見遣ると男の持っていた氷菓子が早くも僅かに溶け始めているのに気がつく。
しかし俺の視線を勘違いしたのか男が俺の手を掴んだままもう片方の手に持った氷菓子を此方に差し出してくる。


「何……」

「一口貰ったからな。……ほら、早く」


押し付けられるように口元に向けられた氷菓子に、こういう時どのような反応をするのが正解なのかが分からず戸惑う。
拒否するのは意識し過ぎているような気もするし、かと言って男の手から食すのは羞恥で死んでしまうかもしれない。
何より、ニコニコと此方に氷菓子を差し出している男の瞳には此方の動向を伺う色が含まれていて、試されている気がしてならなかった。
………何を、試されているのかまでは分からないが。
瞬時にそんな事を考え、結局男の笑みに根負けする。
ぎこちなくならないように、動揺を悟られないように、気をつけながら目の前に差し出された氷菓子を一口齧った。
口の中に先程とは異なる爽やかな甘い味が広がる中、何故か男が俺を見つめているのが分かり、視線を逸らす。


「……美味いか?」

「……まぁ、な」

「そっちのも溶けそうだぜ」

「……ッ……!」


再び此方の手を引いた男が氷菓子に口をつけるのを黙って見ていると、伏せ目がちだった男の瞳が俺の瞳に映る。
何故、ただ物を食べているだけだというのにこの男はこんなにも煽情的なのだろう。
いや、こんな事を考えてしまう俺が可笑しいだけで、男は何も関係ない。
けれど俺の意思など男に通じるわけもなく、俺の異変に気がついたらしい男が更に顔を寄せてくる。
息苦しさを感じるくらいの胸の高鳴りを抑える為に一度息を吐く。


「セト、本当にどうした?」

「……余り……そうやって近寄るな……」

「…………なんで?」

「……何故……って……」

「……俺の事、嫌いなのか」

「……そんな事は言っていないだろう」

「……ふーん」


意味有りげにそう言った男は俺の手を離したかと思うと、もう半分程度しか残っていない氷菓子をあっという間に食す。
その勢いに圧倒されていると此方に視線を向けた男が無言のまま此方の手に持った氷菓子を見てから目で促してくるので、俺も男よりかはゆっくりと其れを食べ終わる。
その間、何も言わない男に、気分を害して仕舞ったかと内心慌てるが何を言えば良いのかも分からないまま手に残った棒を取られ、男が袋と同じようにゴミ箱に其れを捨てるのを見た。


「そろそろ行くか」

「………嗚呼……そう、だな」


そのまま此方を見ないままそう言って歩みだした男に答えを返してその背中を追う。
段々と遠のく建物の灯りと、何も言わない男に不意に不安になる。
何時もならば何かしらくだらない話をしながら帰るというのに、男が話してくれなければこんなにも会話もなく、寂しいものだとは思ってもいなかった。
離れた間隔で建てられている街灯の光の元、足早に人の居ない通りを進む男の背を見ながら俺は遂に堪えきれなくなり足を止める。
そして男の背中に向かって声を発した。


「ハイド」


其処まで大きな声も出していないというのに、俺の声は掠れていて情けなさを覚える。
どうしてこんなに男に嫌われたくないと思ってしまうのだろう。
俺はもう色々な事をしてきて、この身はすっかり汚れきってしまっている。
だからこそ、せめて言葉だけでも素直でありたいと思うのに、それは生来の性格が許さなかった。
そんな迷いながらの俺の声に男が此方に振り向いたのを上手く見つめられずに視線を黒いアスファルトで舗装された道路に移す。


「……先程の言葉で気分を害したなら謝罪する……」

「……」

「……俺はお前を嫌っている訳ではない……そうではなくて、……」

「……じゃあ、なんなんだよ」


会話の間、男が近付いてくる気配を感じていると、視界に男の靴が入り込んでくる。
こういう場合、なんと言えば一番正しいのだろうと考えていると目の前に立った男は俺の言葉を待っているのか何も言ってこない。
今まで何かと此方に甘い男の姿しか見た事が無いものだから、こう詰問されると困惑してしまう。
言葉が見つからず、黙ったままでいるといきなり目の前の男が大きな溜息を吐いたかと思うと、何かが此方の髪に触れたのが分かった。
その感覚に顔を上げると其れは男の掌だと理解し、更に不思議な表情をした男が瞬きをしている。
何か、言わなければと俺が口を開く前に男が囁いた言葉が耳に入り込んでくる。


「悪い。……俺、今すげぇ嫌な奴だよな」

「……ハイド?」

「お前にそんな顔させたい訳じゃないんだ」

「!」

「……なぁ、セト。……俺の事、嫌いじゃねぇんだろ?」


頭に乗せられた手で引き寄せられ、男の肩口に顔を寄せる。
耳元で囁かれた言葉とその行動にゾクゾクとした痺れを背中に感じて動揺してしまう。
何よりも男の声は掠れていて、その中に秘められた熱が嫌でも伝わってくるのだ。
男の言う通り、俺は男が嫌いではない。
けれど其れは男の求めている好意ではきっと無いのだろう。
だからこそ、男の肩に乗せた顔を上げる事も言葉を発する事も出来なかった。
暫しそのままで居ると、髪に乗せられた掌が動かされ顔を上げさせられる。
そして視線が絡んだかと思うと、男の赤い瞳が揺れ動いた。
やはり男の瞳は丹念に磨かれた紅玉に良く似ている。
そんな事を考えていると、髪に触れていた男の手が動き此方の衣服を退かしたかと思うと頬に触れた。
俺の体温よりも僅かに温かで乾いた手が頬を撫でる感覚は今まで感じた事が無いくらいに心地が良い。


「……嫌なら、言えよ」

「……」

「……なぁって」


次第に近づいてくる男の顔と、問いかけに何も言わずに居るとそのまま唇と唇が一瞬だけだが触れ合う。
流石に其処で驚いて少し体を引くと俺の頬から手を動かし体を離しながら苦しげな顔をした男が視線を逸らしたのが分かった。
一体、今、何が起こったのか、俺には直ぐに理解が出来なかった。


「……何を……」

「……嫌なら言えって言っただろ」

「……そう、だな」

「……」

「……」


互いに何も言わずただ男を見つめていると視線を逸らしていた男の頬が赤く染まっているのに気がつき、俺も頬に熱が宿るのを理解する。
確かに先程から男にそう言われていたのに、抵抗も言葉を発する事もしなかった。
其れは嫌では無かったからだ。
男に頬や髪に触れられるのも、口付けをされるのも。
嫌だとは思わなかった、寧ろ、男も俺と同じ感覚を有していた事が喜ばしくさえあった。
俺は薄暗い通りの街灯に照らし出された男が俺と余り変わらない背丈なのを見る。
そして僅かに離れた男に一歩近づいた。
すると顔を上げた男が此方を見てくるのを見返す。


「嫌ではなかった」

「……セト」

「……嫌じゃ、無かった……お前に触れられるのも、……口付けされるのも」

「うん」

「其れで、先程の言葉は……、……その……」


其処まで俺が言うと此方に手を伸ばしてきた男が俺の手を掴んだかと思うと強く抱きしめてくる。
今度は抵抗も躊躇いも無く、耳に聞こえる男の声を聞いた。


「もう分かってる。……お前、無防備なんだもんなぁ……」

「無防備……?」

「……結構顔に出てたぞ。……さっきも、……ってか、前から?」

「…………お前は、出ていなかった」

「ハハ、どうかな。……努力はしてたけど」

「……」

「男から好かれてるって思われて、気味悪がられたり嫌がられたくなかったんだよ。……お前も一緒だろ?」


特にお前は人間関係構築するの苦手そうだしな、と言った男の笑みの混じった声に黙り込む。
真実、その通りなのだから返す言葉も無い。けれど其れをまた言葉にするのも憚られた。
しかし俺が黙っているのを怒っていると勘違いしたらしい男が此方の顔を覗き込んでくる。


「……怒ったか?」

「こんな事で怒る程、短気ではない」

「そうだよな、……ちょっとだけ焦った」

「……ふん」

「……セト」

「なんだ」

「………俺と恋人として、付き合って下さい」


至近距離から真面目な表情で、真剣な声音でそう言われ、息が止まる。
この瞬間のこの言葉に断る人間が居るなら、見てみたかった。
俺は、男の言葉に答える為、ゆっくりと頷く。
すると安堵したように吐息を吐いた男がいきなり此方の肩口に顔を埋めたかと思うと微かに泣いているようにも聞こえる声音で囁くのが聞こえた。


「……良かった。……お前に断られなくて……拒否されなくて、本当に良かった」

「………俺もだ」


耳に響くその言葉に、此方まで胸が苦しくなってしまって此方を抱き締めてくる男の後頭部に手を添わせ、見た目よりも柔らかい髪に指を絡める。
今までずっと触れたいと願っていたが、漸く願いが叶った。
けして叶わぬ願いだと思っていたのに、全ては奇妙な巡り合わせで叶ってしまった。
ふと、もしかしたら此れは夢なのでは無いかと疑うが手に絡む髪は確かな感触を伝えてきている。
此処まで狂おしい程に、誰かを愛しいと思ったのはこの短くも穢れた人生の中で初めてだった。


「……なぁ、セト」

「……どうした?」

「もっかいキスしていい?」

「………」

「……ダメか?」

「……わざわざそのような事を問うな……」

「……其れもそうか」


そんな微かに自虐的な考えをしていると顔を上げた男にそう問いかけられ、羞恥のあまりついついぶっきらぼうにそう答えを返す。
其れに先程のやり取りからもう俺が逃げる事をしないのは分かっている筈なのだから、と言外に伝えるように指先に絡んだ髪をなるべく優しく撫でると男は此方の口元を隠す衣服を指先で押し下げ顔を寄せてくる。
自然と下りる瞼もそのままに男の柔らかな唇が唇に触れる感覚に酔いしれる。


「……ッ……!?」


だが、何か生温く濡れた感覚が唇の上に触れたのに驚いてしまい目を開く。
すると顔を離した男がニヤリと笑って囁いた。


「……甘い」

「!……ばかか……お前……」

「……む、……酷い言い様だな。恋人相手に」

「……なっ……」

「……違ったっけ?」

「ちが……わない……」


そう問われながら首を傾げられ、素直では無い性格の己ですら、素直に認めざるおえなかった。
そんな俺の反応に満足げに微笑んだ男が一度強く抱き締めたかと思うと此方の手を掴む。


「もう、マジでヤバイわ。……早く帰ろうぜ」

「……」

「……帰ったらもっと思いっ切りひっついてやるからな、覚悟しろよ」

「……なんだそれは……」

「そのままの意味だよ」

「……」

「……ほら行くぞ、セト!」


俺の手を引いた男が早足で歩むのを追いかけるように足を動かす。
やはり男は俺を何処へでも連れて行ってしまう。
しかもその場所は何時だって温かく優しい光に満ちているのだ。
薄暗い空間の中で初めよりも近くに見える男の道標のように輝く髪を後ろから眺めながら繋がれた手を離さぬように微かに指先に力を込めた。



-FIN-






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