11.生む


※キャラ崩壊・微グロ注意



俺の中に潜む残虐性を抽出して作り出したのが奴ならば、俺はきっとこの先の人生で 何度奴を殺し、生み出すのだろう。
終わりの無い永遠ともいえる輪廻。
自分の体から零れ落ちて、溢れて、周りに危害を加えようとするその感情に俺は名前をつけ、 形を与え、そうして俺に対立させる事で自我を保つ。
誰にも迷惑はかけない、たった一人だけの自傷行為にも近いそれに嫌悪を感じなかったといえば 嘘になる。
けれど誰も助けてはくれないのだ。
あの美しい吸血鬼も、紫の髪の錬金術師も、気高い代行者も、儚げなクラスメイトも、 可愛い妹も、表裏一体の双子も。
唯一近かったのは、赤い髪をしたあの人だけだったろうが、それでも違ったのだ。
寧ろ今の俺を見たならば、先生は俺を軽蔑しただろう。
俺は俺の影を俺とは違う人物に仕立て上げる事で、自由を得ようともがいている。
しかもそれは無意識に近い。だからこそ問題なのだが。
  何度も何度も何度も何度も、眼下のボロ屑になったものに刃を突き立てる。
声すら立てないそれは、かわりに真っ赤な血を流しながらぐちゃぐちゃという不協和音を奏でた。
もしこの姿を見られたら俺が狂ってしまったと思われるのだろう。
だが実際はもっと前から狂っているのだから、可笑しな話だ。
今日の舞台は表通りから逸れた道をずっと行った路地裏で、人ごみの中、歪んだ笑みを浮かべた奴はもう居ない。
大量にいた筈の人々の喚声は遠く、ひたすら目の前のものを消そうと躍起になる。
大体、殺されるのが分かっているのに誘う奴も悪いのだ。
まるで飢えた獣の前に極上の餌をぶらさげるようなそんな浅はかさで。


「…………」


刺しては抜く、その繰り返し。
膝をついて其れに馬乗りになっている所為か、膝上まで血で汚れてしまっている。
何が恐ろしいのか、と自分自身に問う。
もはや目の前のモノは完全にその機能を停止させ、薄い色素の目は濁っているというのに。
もうその唇で俺をからかうような言葉も吐かないし、俺の薄暗い部分を煽ったりもしない。
なのに俺は恐ろしくなって、もっと抜き差しする深度と速さを強めた。
まるで料理でもしているかのようだ。
けれどそこにはきっと何も生まれない。そうに決まっている。


「……ッ……」


もう充分だ、もう何も恐れなくて良い。
分かっているのに手が止まる事は無い。電池で動く人形のように一定の動きを反復する。
誰か来てしまう、そう思いながらも誰か来てくれたら良いとも思う。
それは止めて欲しいと願うのと同様に、何かしらの獲物が欲しい。
……獲物?
何故だろう、俺の薄暗く、醜い思いは目の前の人形に全部詰め込んで封をして、今、殺しているのに。
なんで俺は一つ刺しては抜くたびに、笑いたくなって、遂には歪んだ笑みを浮かべているのだろう。
可笑しい。俺は正しくなったはずだ。
違う、正しくあろうとして目の前の奴を何度も殺して、それで救われた筈だ。
だから俺は異常者としてでは無く、ただ『死の線』が見えてしまう、そんなただの一般人になれた筈なのに。
それなのに、どうしてこんなにも渇望している。
血を、肉を、快楽を、恐怖からくる叫びを。
そんなものを求めない、ただ人々と同じように、有り触れた幸せを求める。
そんな人間になりたくて、俺は、何度も奴を生み出しては、壊して。


「……やっぱりお前は何処までも殺人貴だよ、遠野志貴」


ザァッと全身の血が下がる音がして、下にいるモノを見る。
先ほどまで散々突き刺して、引きずり出して、見るも無残な姿になっていた筈のモノが哂っていた。
体中を汚していた血液も、そこらじゅうに散らかった臓腑も何も無い。
何故だ、何故、何故。
どうして生きている。あんなにも壊してやったのに。


「……眼鏡を外さないのは、何時でも切り刻める玩具を失いたくないからだろ?」

「…………」

「本当に……愉快だよ、……」


それ以上を言わせないようにその喉元を切り裂く。
ビシャ、とその喉元からは大量の血が拭き出て、俺の顔や体を汚した。
これは悪夢だ。こんなのは真実じゃない。
目が覚めたなら、理解されなくても、それでも、みんなの幸せを少しでも叶えて、笑って。
有り触れた感情に揺り動かされて、人なんて殺す快楽など知りもしないで。
清らかな、遠野志貴として生きていけるのだ。


「……は、……はははは……」

「……」

「っく、……ふ、……ふふふ、はははは……!!」


だから、俺と奴しか居ない世界で奴を殺し続ける。
産み落としては殺し、殺しては産み落とす。
此処が何処だったのか、分からない。
奴を追って路地裏に来たはずなのに、まるで何の光もないような真っ暗な光景。
その中でも一際美しく流れ出る真っ赤な鮮血。
これは、悪夢だ。誰も知らない、俺と奴だけの悪夢。
ならば、今の俺には目の前の獲物と刃だけがあれば良かった。
それだけが、今の俺には必要だった。



-FIN-






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