06.暴露


※キャラ崩壊気味



「可愛い」

「…………」


またか、と内心思うがそれには反応する事をせず黙ったまま本を読む事に没頭する。
気でも違ったのか、ひょんなことからこちらに懐いてしまった獣は何故か最近『可愛い』という台詞を多用するようになった。
始めは独り言だと思っていたのだが、毎回毎回言われているとそれが独り言でも冗談でも無いのだのだと気が付かざるおえない。
今日も辺りは美しい緑が生い茂り、柔らかな日差しが降り注ぐオレの小屋に近いこの広場のようになっている場所は何時しか獣……七夜との密会の場所になって しまった。
オレはこの広場の中央に生える一本の巨木に背をつけながら、隣で楽しげな七夜を横目で少しだけ見遣る。
すると七夜はそれを待っていたと言わんばかりに再び先程の続きを言い出した。


「軋間は可愛いな」

「…………」

「それとも……優しい?」

「何故、そうなる」


オレはその空気に耐え切れず思わず言葉を放つ。
始めてその言葉の意味を聞いたような気がした。


「んー?だって気にしてくれるだろ?俺の事」

「…………」

「本当は俺の事、簡単に殺せるのに殺さないし」

「……それは……寧ろお前はオレに殺されたいのか」

「いや?殺しあいが性分なのは否定しないが、何となく今は嫌なんだ」

「…………」

「だからアンタが俺を見てくれるだけで嬉しいと思う」


そう言いながら七夜は微かにその頬を染めながら笑う。
今までそんな七夜の顔を見たことが無く、オレは思わず、愛らしいと思った。


「…………」

「でも俺は普通の褒め言葉?なんて知らないし、こういう時、なんて言ったら良いか分からないから」

「…………」

「もっと……上手く言えたら良かった……悪い」

「……七夜」


どうしてもっと早く言葉の意味を聞いておかなかったのかと後悔した。
あれは七夜なりの気持ちの伝え方だったのだろう。
オレはいつの間にか閉じていた本を傍らに置き、七夜の方を向く。


「…………」

「まぁ……なんだ……『可愛い』と言われるより、お前の思う気持ちを知らせてくれた方がオレとしても良い」

「……でも……」

「ん?」

「……素直に言う方法が分からない……」


そういう七夜は俯き、その顔は真っ赤な林檎のようだ。
オレにしてみたら『可愛い』等という言葉の方が余程恥ずかしいものだと思うが、七夜にとっては包み隠さず自身の心のうちをさらけ出す方が羞恥心を煽られる らしい。
オレは思わず俯いている七夜に手を伸ばし、そこにある柔らかくしなやかな煙がかった黒髪に触れる。


「……軋間……?」

「…………『可愛い』」

「!」


そしてオレは七夜が今まで惜し気もなく言ってきた単語を始めて唇に乗せる。
すると七夜の身体がビクリと震え、困ったような顔をしながらこちらを見上げてきた。
なのでさらに重ねるようにその単語を囁く。


「……七夜は『可愛い』な」

「……それ……嫌だ……」

「何故だ?今まで散々言ってきただろう?」

「俺が言うのは良いけど……お前が言うのはダメだ……」


オレはそんな困惑と焦りをないまぜにしている七夜が愛らしく感じられて、さらにその髪を慈しむように撫でる。
日の光に照らされたそれはキラキラとした光を反射し、青い服や赤くなった顔なども細部までよく見えた。
七夜は耐え切れなくなったのか逃れようと微かに胡座をかいていた足を崩し、両膝を胸前に持ってくる座り方に直したが、それが逆にこちらから身を守ろうとし て足掻く小さな生き物のようで、尚のこと、こちらの加虐心を煽ってくる。


「……どうしてだ?」

「わ……かるわけ無いだろ……」

「では何か嫌なのか」

「嫌っていうか……アンタに言われると、むずむずするというか……胸が異常にドキドキして……」

「……ほう」

「…………アンタと居ると、……変になる」

「…………」

「……何だよ……」


オレはそう呟いた七夜に対し、僅かに思考を停止させてしまう。
まるで、それは一瞬で見惚れてしまったかのような。


「……いや、なんでもない」

「馬鹿にしてるんじゃないのか……その顔……」

「そう見えるか」

「…………」


そう問うと悲しげに俯いた子供の頬に手をあて、その顔を上げさせる。
そうしてその子供に自分でも驚くくらい優しい声で囁く。


「……七夜、」

「……ッ……」

「……そんな顔をするな、オレはお前を馬鹿になどしていない」

「…………」

「分かったか?」

「…………ん……」

「それなら良い」


オレはその反応に安堵して、再び置いていた本を手に取る。
しかし今度は空いている手を七夜の肩に手を回すのを忘れないようにして。


「……きし、ま……?」

「…………」


触れ合う体温、先ほどよりも温かい其れにオレは思わず気がつかれない程度に含み笑いを浮かべた。



-FIN-






戻る