カードキーを翳すと施錠された金属製のドアの鍵が音も立てずに開かれる。
手を掛けたドアノブを引けば、当たり前のようにドアの角に設置されたセキュリティシステム用のカメラに全身をくまなくスキャンされた。
いつもどおり問題なし。イケメン度合いは若干疲れているから少しだけ下がっているかもしれないが。
そして玄関で靴を脱ぐ前に落ちている靴下に気が付いて、思わず苦笑を一つ。
黒いその片方を手を伸ばして拾い上げると、手に持った買い物袋がガサリと音を立てた。
さらに進んだ先の廊下に一つ、落ちたもう片方も回収。
ダイニングへのドアの前に落ちているのは黒いコート。ソラスも朝晩は冷えるのでコートは必要だ。
それを肩にかけてドアを開く。さて、今度は一体何が落ちているかと期待をしつつ、ダイニングテーブルに食材の入った買い物袋を置いた。
ダイニングテーブルの側には、これまた革製のベルトが1本、蛇の脱け殻のように落ちている。
確かにベルトをしていると苦しいからな、とそれも拾い上げてから、さらに室内に視線を向けた。
そうして部屋の中央に置かれたシンプルな黒いソファーの背もたれには深緑色のネクタイが引っ掛かっている。
これはもう"目的地"までまもなく到着だな、とゆっくりとした足取りでソファーに近付くと微かな寝息が聞こえてくる。
そのまま、そうっと覗き込むと、ワイシャツのボタンを緩めて眠っている"目的地"が居た。
いつも痕跡を残さないようにしているコイツらしくもない、まるで有名な童話のような行動に呆れてしまうが、それだけ俺を信用してくれているのだと思えば自然と零れる笑顔が一つ。
「会いたい、なんて可愛い事言ってくれちまってよ。全く……そりゃあ店上がりだろうと飛んで来るに決まってるっての」
仕事終わりにチェックした通信端末に入っていたメッセージには『会いたい』の一文。
この様子を見るに、なかなか面倒臭い仕事を引き受けて、かたっくるしい人物とでも会っていたのだろう。
最近ようやく甘えてくれるようになった"目的地"……もとい恋人であるクリプトのリラックスした様子の寝顔を見つめる。
さて、珍しくコイツが熟睡している間にコイツが落としていた痕跡を片付けて、起きたら飛びっきりの美味い飯でも食わせてやろう。
俺は仕事の疲れなどあっという間に忘れて、鼻歌まじりに手に持った落とし物達を洗濯カゴに入れるために洗面所へと向かったのだった。
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